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 辿り着いた山小屋は、いかにもな山小屋だった。古びた壁にアルミのドア。土足OKらしい板張りの床は所々きしりと音を立て、カーテンもブラインドもかかっていない窓は薄汚れていた。 「すごいとこ、だね……?」  初めての山小屋に美空は目をまたたくばかり。びっくりするほど粗野な作りで、お世辞にも快適とはいえない。トイレも水道も外だなんて。ということは、キッチンとバスルームももしかして。 「は?そんなもの、あるわけないだろ。ここは宿泊施設でも別荘でもない。ただの避難場所だ」  外にあるのかと、疑問を口に出したところで呆れた声が飛んできた。室内を見回していた美空が振り向くと、荷物を床に下ろした圭吾が壁に寄り掛かったまま煙草に火をつけたところだった。かちりと灯った炎と煙草の匂い、そしてゆらりと紫煙が立ち昇っていく。 「避難場所?」 「山の天候は変わりやすい。標高の高い山ならたいてい設置されている。それに急激な雨風を避けるためだけでなく、怪我人や病人が救助を待つ場所としても使えるからな」 「へえ、そうなんだ。知らなかった。圭吾って物知りなんだね」 「は?」  褒めたつもりだったのに、なんともいえない顔をしている圭吾に美空は首をかしげる。圭吾はわずかに顔をそむけると、煙を一つ吐き出した。 「なによ」 「……べつに」 「ふーん?」  よくわからない圭吾に美空は肩をすくめると、ふたたび室内に視線を向けた。キッチンやバスルームだけでなく、冷蔵庫もない。もちろんテレビもない。あるのは折り畳みの椅子と壊れていそうな丸いストーブ。壁にはロープやスコップ、誰のものなのか、黒いカッパが釣り下がっていた。そしてその横には少々不可解な空間。美空はその場所に歩み寄ると、しげしげと眺めた。 「なんで畳?」  小上がりになっているその場所には畳が二枚敷いてあった。けどそれだけ。テーブルも座布団もない。これじゃお茶もできない。すると後ろから低い声が答えてくれた。 「怪我人や病人を寝かせるスペースだ。仮眠場所にもなる。あとは……」 「あとは?……え、きゃっ」  振り返ろうとした瞬間、視界がぐるりと回った。気づけば仰向け状態。驚きに見開かれた美空の目に映ったのは染みの広がった天井と、――圭吾。  押し倒された美空の両手は、大きな手によって畳の上で拘束されていた。 「あとは一つしか思いつかねえな。知りたいか?教えてやるよ」  固まったままの美空の上で、男の薄い唇がゆっくりと笑んだ。 「セックスだ」
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