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「セッ……ク、ス?」  思わずそのまま言葉をなぞってしまったのは衝撃すぎたせいかもしれない。いいにくい言葉の代表格であろうそれ。美空が固まったままでいると圭吾が笑った。なに一つ、おもしろくなさそうに。 「思いもしなかったとかいうなよ。こんなとこまでのこのこ着いてきて男と二人きり。襲ってくれっていってるようなもんだろ」  その声色はバカにしてた。美空を。けどそれだけじゃない。男は男自身をもバカにしているように思えた。それは錯覚か、それとも。  美空は驚きで止まっていた呼吸を細く震わせた。押し倒されたことも、両手を乱暴に拘束されていることも、男という存在をこんなふうに間近で感じることすら経験がない。心臓はすでに早鐘のごとくその鼓動を揺らしている。けどなぜか不思議と怖くなかった。だから質問してしまった。 「でも、アホだっていったじゃない?そんなアホでもその気に……なるの?」  わずかに沈黙した圭吾の目がすううと鋭くなった。すがめるように美空を見下ろす。 「男はな、やるだけなら、たいていの女とやれる生きものなんだよ。相手がアホだろうが間抜けだろうが、その上で腰を振れりゃなんでもいいわけ」  おそらく赤裸々な表現なのだろう。だが経験のない美空には赤くなるべきか青くなるべきか、それすら不明で。 「そう、なんだ。便利?だね?」  美空としては、そういう経験をするならそれなりの相手がいいと思っている。好みの顔がいいと思うし、優しいほうがいい。シチュエーションだって多少の希望はあったりする。けど男はそうでもないらしい。相手は誰でもよくて、こんな薄汚れた場所でも平気らしい。だからそういった。単純に素直な気持ちだった。こんな体勢であれだけど。それが悪かったのか。  ふたたび黙った圭吾の眉間にしわ。鋭い眼差しに剣呑さが増したのは、きっと気のせいじゃない。けど少しも怖くない。本当に不思議だ。  こんな場面を兄と従兄が見たら、きっと血管が切れるぐらいに騒ぐだろう。二人とも過保護だから。  そして睨まれること数十秒。やがて低く舌打ちした男はなぜかうなだれて、美空の耳元で深いため息をこぼしたのだった。 「……萎えた」  そんな一言とともに。
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