怪談サークル「ちゅうりっぷの会」第一回公演 「宵の口」

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 二日後に葬式があった。わたしも参列したのだけれど、ほとんど記憶にないわ。自分が泣いていたかどうかも覚えてない。身内に降りかかった災難が信じられなくて、ただ茫然としていた。そしてようやく気持ちの整理がついたとき、胸中に残ったのは不可解な疑問だった。  あの日、わたしの前を歩いていた英子は何だったのか。  彼女がともなっていたモノは、何だったのか。  彼女の家を覗き込んでいた影と、同一の存在だろうか。  それからほどなくして、英子の遺族は別の町に移り住んだ。つらい事故の記憶から逃れたかったのでしょうね。お屋敷は売りに出された。  半月ほどたった晩。わたしは久しぶりに英子の家へ続く道を歩いていた。あの影がどうなっているのか、どうしても気になった。  屋敷に近づくにつれて、足取りが徐々に鈍っていくのを実感したわ。夜歩きなんて何とも思ってなかったのに、そのときは心なしか気分が昂ぶっていて、木枯らしで揺れる枝の音、ふいに向かい側からやってくる車のヘッドライト、そういったものに心をざわざわと撫でられた。両脇に建つ家々の灯りはすでに消えていて、そのどれもがわたしを無言で見下ろしているようにさえ思えた。  やがて英子の家に着いた。門の前に人はいない。影らしきものもない。闇にすっぽりと溶けこんだかのように。  ほっと息をついて帰ろうとした、そのとき――  声を聞いたの。  家の中から、人の、それも複数人で団らんするような。  けれどもそんなはずはない、だって固く閉じた鉄門は管理会社の札で封じられ、花壇や鉢を残らず取り除いた庭は更地のように殺風景。新しい借り手がついたとはとても思えない。
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