怪談サークル「ちゅうりっぷの会」第一回公演 「宵の口」

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怪談サークル「ちゅうりっぷの会」第一回公演 「宵の口」

 目が合うと、彼女は染みとおるような笑みを浮かべた。  誰が呼んだのか。いつからそこに居たのか。  ――新歓コンパの二次会場に選ばれたのは、古びた居酒屋の団体席だった。十畳ほどの個室に大学生ばかりを押し込んだ空間は、もはや賑やかを通り越して一種の騒乱状態を呈している。若さゆえに持て余されたエネルギーがアルコールによって増幅し、ジョッキどうしのぶつかる音、せわしく往来する店員、各所から上がるもはや絶叫に近い笑い声――賑々しさの中、僕はふと、斜向かいの席に違和を感じた。  視線を転じた先、うすぼんやりと暗い部屋の角に、少女はいた。壁に側頭をつけてしなだれ、ウイスキーグラスに口づけている。大人びたしぐさに対し、顔立ちはどこかあどけなかった。僕と同じ一回生だろうか。肩まで伸ばした黒髪。酒を飲み下すたびに、丸まった毛先が頬に触れる。きめの細かいシルクのような頬。強めの酒を飲んでいるのに、まったく上気した様子がない。  奇妙なこともあるものだ――まわりで飲んでいる誰一人として、彼女に構う様子がないのだ。さらにおかしなことには、僕自身いまのいままで、この少女の存在に気づいてすらいなかった。まだ夜もふけきらないうちに着席し、そろそろ日付が変わろうとしている。そんなに時間が経つまで、酒席を共有する相手の存在に気づかないということが、はたしてあるだろうか。  かろん。
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