怪談サークル「ちゅうりっぷの会」第一回公演 「宵の口」

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 学校からの帰り道、前方に見覚えのある傘を見つけた。雨模様の中に咲いたチューリップのような傘。間違いない、英子だ。こちらに背を向けているので、表情はわからない。けれどみずみずしい傘の色合いとは裏腹に、その背中は陰気だった。足取りに普段見せる快活さはなく、水音一つ立てずに歩いている。糸のような雨が傘に落ち、はじかれることなくゆっくりと染み透る。  彼女は一人ではなかった。  知らない誰かが、彼女の右後ろをつけていた。歩いている、という感じじゃなかったわ。音もなくすべるように――まるで英子の背中にくっついたかのように、彼女に付き従っていた。背の高いやせた影。全体が茫洋としていて、男か女かもわからない。雨なのに傘すらさしてなくて、だというのにちっとも濡れた気配がない。  わたしは心底からぞっとするものを感じて、英子のもとまで駆けだした。はずみで、差していた傘が前に傾き、一瞬、英子の姿が隠れる。  再び傘を上げた時、英子も影も消えていた。  そんなはずは……。  傘を投げ捨てて、あたり一帯を見まわす。脇道も無い一本道。なのに英子の姿はない。  彼女はいた。たしかにいま。あの何者かにつれさられたのか。だったら立派な誘拐事件。  でもね、それは勘違いだったの。  後日わかったことだけど、英子はこの日、その道を通ってすらなかった。反対方向にある大通りへ、寄り道していたらしいわ。道路を横断していたところ、信号無視のトラックに跳ね飛ばされた。  即死だった。
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