怪談サークル「ちゅうりっぷの会」第一回公演 「宵の口」

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 入学後に初めて会話した女子生徒でもあり、会えばたまにお茶する程度の仲だ。この日も最終講義で同席したため、終了後に中庭のテラスで雑談した。頃合いを見て神室花の情報を聞き出すつもりだったが、タイミングがつかめない。「飲み物おごるよ」の一言が余計だった。なけなしの野口英世数枚がすべてチャリ銭に成り果てたころ、ようやくそれとなく切り出せた。そして返ってきたのが先のすげないセリフだ。ドリンク代に費やされた野口英世が浮かばれない。  磯部は胸ポケットに忍ばせていたマカロンの封を破るや中身を瞬時に飲み下し、どこからともなく取り出したロリポップを一口でただの棒切れに変えた後、口紅ではなくイチゴシロップを塗っていますと言われても納得してしまいそうな口元をぺろっと舐め、それから摂取カロリーに見合わない小柄な体を乗り出して、 「なに、ヨナっち、そのカムロさんっていう子が気になるの? ストーカー?」  気になっていると言えば、気になっている。一緒に過ごす時間は長いのに、肝心の花本人の素性は何一つとして知らないのだから。けれどセリフの末尾は聞き捨てならない。反論しようと口を開いたけど、出てきたのは間の抜けたあくびだった。 「ほら、夜中までストーキングしてるから……。ていうか、ここんところだいじょうぶ? 寝不足? しょっちゅう眠そうにしてるけど」  それもそうだ。花と出会ってからというもの、まともに熟睡できた日がない。
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