クリスマスイヴの前夜

2/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
リクの住む町は森に近く、森全体がモミの木です。町にもモミの木が植えられているので、クリスマスには飾り付けがされています。もちろん家の中もクリモミの木があります。森で見つけてきたモミの木を、クリスマスツリーにするのは毎年の行事です。クリスマスを前にしたリクの町は、どこもかしこもモミの木だらけでした。 町の中央には、大きな金色の星を頂いた大きな大きなモミの木が立っています。町中の人がこのモミの木に飾りつけをするので、途中からこれ以上飾らないようにと注意されるほどでした。 その町の中央とは反対にあるモミの木の森は、昼間は子どもたちの遊び場でもあります。森の奥にさえいかなければ、わんぱくな子どもたちを遊ばせてくれる懐の深い森でした。 その森の中へずんずんずん歩いていきます。すっかり頭に血が上ったリクは、ぱっくりと大きく口を開けたような真っ暗な森の怖さに気がつきませんでした。 ひゅっと吹きつける冷たい夜風は、自分の悲しい涙だと思いました。真っ暗な森の中は、自分の心が暗いからです。ざわざわとうるさい木々の枝葉に、やっとリクは立ち止まりました。 昼間には聞こえな鳥の鳴き声が聞こえます。木々の合間に光っているものは何でしょうか。がさがさという音、雪の上を静かに歩く気配。昼間には見れないものでした。 「か、かえろうかな」 怖くなったリクは振り返りました。 「あれ?あしあとがない」 今まで歩いてきたリクの足跡がありません。真っ白な雪を見て、あわてて空を仰ぎました。銀色の月が照らしているばかりで、雪がちらついている様子はありません。 「どうして、足跡がなくなってしまったんだろう」 リクの中に浮かんだ疑問が恐怖を消し去りました。そのかわりに、いろいろなことを考えます。 もしかして、僕の足は浮いているのかもしれない。リクはそっと足をあげましたが、ちゃんとリクの足は雪の上に、地面の上にあります。浮いているわけではありません。 次に後ろ歩きをしながら、雪の上を歩いてみます。足跡がつくかどうか確かめているのです。後ろ歩きをしながら注意深く、自分の足跡を眺めていると、足跡はつくものの、すぐにすうっと消えてしまうのです。 「な、なんでだろう?」 驚いているとリクの背中に何かがあたりました。木の幹かと思って振り向くと、そこにはリクよりもお父さんよりも大きな大きなひとがいました。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!