クリスマスイヴの前夜

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「お父さんなんか大嫌い!」 「リク、リク!待ちなさい!」 ばたんと扉を勢いよく開けて、リクと呼ばれた少年は飛び出しました。肩までのびた銀髪を振り乱し、降り積もった雪の上に足跡をつけていきます。背中から父親の声が追ってきましたが、自分を追いかけてこないのは分かっていました。 お父さんの足は調子が悪い。だから、僕についてこれないさ。 意地悪い気持ちが頭をもたげて、ひゅうっと胸の奥を吹きつけました。白々とした月が深い海の底のような空の上に浮かびます。雲ひとつないお天気ですが、昨夜までは雪が降っていました。積もった雪に大喜びしてはしゃいだリクは、昨日の昨日までは幸せでした。 クリスマスにクリスマスツリーがないなんて、ひどいじゃないか。 目に浮かぶ涙をぬぐわなかったので、冷気で凍ってしまそうです。夜で寒いのだから家に戻った方が良いと思いましたが、リクの足は止まりません。そのままモミの木が生えている森まで一直線に走っていきました。黒々とした森を怖いと思う暇もなく、慣れた足取りで突き進みます。 お父さんが家でどうしているか、お母さんがどう思っているかなど考えもしませんでした。
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