風や星に想いを託して

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風や星に想いを託して

 中山(なかやま)史織(しおり)という少女について、思えば僕の知っていることは本当に少なかった。元々他人への興味が薄い自覚はあったけど、周りの同調圧力みたいなものを強く感じ始めた小学校高学年以降は(つと)めて距離を置くようになっていたように思う。そんな僕だから中山史織についても、砂漠の中の砂一粒くらいのところしか知らなかったのだろう。  まず、彼女は僕のクラスメイトだ。席は教室の隅にあり、誰とも関わろうとせず、ただひとりで黙々と読書をしたりスマホで何かを見ていたりするだけ。ずっとそうだったのか、周りもそれにとやかく言ったりすることもない。ただクラスの女子たちとの仲が決して(かんば)しくないらしいことは、彼女とすれ違うときに女子たちが舌打ちする姿から想像できた。過去に何かあったのだろうか――あれこれ想像することはあっても、深入りできるわけもなく、僕はただそんな中山を遠巻きに見ているだけだった。  そして、これは偶然彼女のスマホ画面が見えてしまったときに気付いたけれど、彼女はネットに自分の描いた絵を載せたりしているようだった。目についたのが僕の知ってるキャラクターで、早速検索してみたら中山の投稿アカウントはすぐに見つかった。画力は高いと言えば高く、よくある漫画絵と言えばそう言えなくもなかったけれど僕は好みだったし、実際彼女にはファンらしきものもついているようだった――ファンからのメッセージに明るくレスポンスしているその文面は、学校で孤独に過ごしている彼女とはあまり重ならなかった。  そのSNSでは絵の投稿の他にゲームの趣味もあるらしいことも書かれていて、いつもスマホをいじっていたのもどうやらソシャゲをやっているかららしいことがわかったし、僕らの親が子どもの頃遊んでいたようなゲーム機のソフトもやったりしているようだった。それらの投稿に対してはいくつもの返信が寄せられていて、見てみたらただ挨拶をしただけの投稿にも秒単位で反応があったりするようだった。  学校とはまるで違うそんな姿を知った僕は、ふとその中に混ざってみたくなってしまったのだ。
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