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「良かったじゃん、佐藤に会えて」  隣で海音がシャンパンを優雅に飲みながら言うと、俺は「別に……」と思ってもいないことを言う。それを聞いた海音がまたニヤニヤし始めて「素直じゃないなぁ」と言った。  俺の視線の先には、同級生たちに囲まれて楽しく時間を過ごしている千夏の姿があった。高校の時は肩ぐらいの長さだった髪も、今では胸ぐらいまで伸びている。雰囲気も大人っぽくなり、化粧した顔は艶っぽく感じられた。それでもそれ以外は全く変わらない千夏の姿に、俺は付き合っていた頃の記憶をつい思い出してしまう。 「いいの、冬弥? こんなチャンス、滅多に無いんだよ。佐藤は二次会来ないみたいだし、話しかけるなら今がチャンス」 「うるさいな、分かってる」  俺は一気にグラスに入っていたシャンパンを飲み干すと、皿に盛った肉を口に放り込んだ。  話しかけたいけど、勇気がない。あんなに聞くぞ、なんて思ってたくせに。いざ目の前に本人が現れると、聞きたくても聞けなかった。それに俺と付き合っていたことは、千夏にとっては忘れたい過去かもしれないし。もしそうならば、俺は過去を思い出させるようなことはしたくない。 「あ、ほら。今一人になったぞ。行けって」 「いや、やっぱいいわ……」 「は!? お前、根性ナシだなぁ」 「分かってるよ……」  ちらっと俺は千夏を見ると、向こうが振り返った。瞬間、バチっと目が合ってしまう。向こうはビックリしたような顔をすると、俺は思いっきり目を反らしてしまった。感じ悪いとかそんなことまで気が回らず、ただ突然目が合ったことに動転を隠せなかった。  隣で海音が溜息をする音が聞こえると、俺は海音が何を言おうとしているのかが手に取るように分かった。臆病者、根性ナシ。そんなの分かってる。分かってるけど、無理なものは無理なんだよ。  俺は皿に盛った肉を口に放り込む。新しく取って来たシャンパンを喉に通すと、「じゃあ俺がやってやるわ」と海音が突然言った。 「佐藤ー! 佐藤千夏ー!」
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