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突然海音が大声で千夏を呼び始めると、俺は驚いて「バカバカバカ!」と手に持っていた物を全部机に置いて、海音の口を塞ごうとした。けれども海音は俺の手をひょいっと避け、千夏のことを手招きする。周りにいた奴らは俺と千夏を見た瞬間、ざわつき始めた。何を考えているのかなんて容易に想像できる。
「こっち」
千夏は海音に手招きされ、気まずそうながらもやって来ると「久しぶり」とぎこちない笑みを見せた。
「久しぶり。いやー、髪伸びたね」
「あ、うん」
「ほら、冬弥も」
海音は俺の肘をつつくと、俺は気まずくなりながらも「ああ、うん」と言って千夏を見た。
何でだろう。今まで付き合った彼女とは、別れてからも全然普通に接することが出来たのに。どうして千夏だけは、こうも気恥ずかしくなってしまうのだろう。
「……久しぶり」
「うん、久しぶり」
ぎこちない空気感が生まれ、間に挟まれていた海音は呆れたように俺たちを見ると「あっ」と突然言って、机に置いておいた食事とシャンパンを持った。
「土屋ー、久しぶりー!」
そう言って、目の前にいる土屋の方へと向かって行くと、俺は思わず「えっ」と声を漏らしてしまう。千夏も「えっ」と言っており、呆然と海音の後ろ姿を見ていた。
「あとは若い二人で楽しんで」
小声で海音がそう言うと、「同級生だろ」と俺は思わず突っ込む。勝手なことをしやがって。俺はチラッと千夏を見ると、千夏とまた目が合った。
「あ、悪い。海音、ああいう奴で」
「う、ううん。朝比奈くんは変わってないね」
「ああ、本当困った奴だよ……」
それで会話が終了する。無言の気まずい空気が流れ、俺は何か話す話題を考えながらシャンパンを飲んだ。緊張のせいで喉が渇いているのか、さっきまで潤っていたはずの喉はすっかりカラカラになっていた。
「……佐藤は、今何してるの?」
「あ……今は、小学校で先生やってる」
「先生……夢、叶えたんだ」
「え?」
しまったと俺は口元を触ると、「悪い」と謝る。思わず、付き合っていた時に話していたことを思い出して、口を滑らせてしまった。
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