平凡な人間

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平凡な人間

 今日も王都は晴天で、中心街から離れた場所に看板を掲げるバーベリ武器店は、定刻通り開店した。  まだ若い店主のジルコフ・バーベリは、店先に並べた武器を念入りに点検する。  ここシードロフ王国は、すぐ北にある小さな国、「魔王の国」の影響で非常に魔物の被害が多い。しかしそれはたくさんの冒険者を集める好機でもある。魔物狩りの依頼を求めてやってくる多くの冒険者は経済に潤いを与え、国は成長していく。大陸北端の魔王の国から南にある小国群を守るように、東西に広い土地をもつシードロフ王国は、その土地の広さと経済力軍事力ともに申し分ないことから、北の大国とも呼ばれている。  さてこの国では宿屋も料理屋も十分に儲かるが、一番の目玉は武器屋と防具屋だ。特に王都にはその手の店が多く立ち並び、訪れる冒険者は上質な装備品を簡単に手に入れることができた。それに最近では、王都の中心街に大型の武器・防具屋ができて、今まで以上に武器も防具も安価で手に入るようになった。大規模な工場で装備品の大量生産が行われている。訪れる冒険者も増えた。国はさらに潤った。しかし、華やかな王都の片隅で、その割を食う武器屋と防具屋は少なくない。  ジルコフが営むバーベリ武器店も、その一つ。  彼はこの仕事に特別な熱意があるわけではなかったが、なんとなく父の仕事を継いで、つまらなくはなかったという理由でのんびりと店を続けている。平凡な少年時代を過ごしたジルコフにとっては妥当な選択であった。ごく普通の短命種である人間の家庭に生まれ、王都で育ち、魔物との戦いとも無縁で生きてきた。「俺たちは直接魔物とは戦わないが、こうして作った武器を通して、冒険者たちとともに戦っているんだ」生前、ジルコフの父はそう語っていた。人間の一生は短い。ジルコフが店を継いで数年後、両親は老衰で穏やかに息を引き取った。以降、彼は一人で小さな武器屋を営んでいる。
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