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魔王の契約
どれくらい時間が経っただろうか。ジルコフはまだ店内の冷たい床に座り込んでいた。
「お迎えに上がりましたよ」
涼やかな声がジルコフの耳元で囁いた。ジルコフが驚いて振り向くと、魔王が微笑みながらすぐそばに立っていた。
いったいどこから……と問おうとして、やめた。相手は人間じゃない。どこからでも入って来られるだろう。
「ジルコフ・バーベリ。あなたを正式に我が配下として迎えましょう」
魔王の手がすっと伸びてきた。
「人間は弱い生き物です。体も、心も。私はそれを重々承知しています」
ジルコフは差し出された手を見ながら、はたと気が付いた。もしかして、と顔を上げる。
「勘が鋭いお方だ」
魔王は少し困ったように眉尻を下げた。
ジルコフはその様子を見て、深々とため息をついた。最初から、そのつもりだったんだ。魔王はジルコフを配下にしようと思ったけどやめた、と言ったが、あれは嘘だったのだ。すべては彼の策略のうち。魔王が本当に二万人の軍勢を殺したと知れば、ジルコフが責任を感じてしまうことも、魔王が王都を訪れた噂が流れたことも。この人類の敵が、たった一人の武器屋の男を手に入れるための計算だった。
「最低だよ、あんたは」
「それはどうも」
ジルコフは差し出された手を取った。
「契約成立ですね。これよりあなたは私と共に永遠の生に縛り付けられます。もう逃げることはできない。死の救済は訪れない」
「後悔したって、もう遅い」
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