魔王の契約

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 ジルコフは魔王に殺された二万人の兵士のことを考えた。自分が直接手を下したわけではないのに、その責任の一端はやはり自分にあるように思えてならない。それが罪だとして、償う方法はあるのだろうか。このまま王都に残り、「魔王に武器を売った男だ」「人類の敵に加担した武器屋だ」と後ろ指さされて、二万の兵士の家族に憎まれ続ければいいのだろうか。でも、ジルコフはその苦痛に耐えられるとは思わなかった。 「俺はもうとっくに、お前の策に嵌っていたんだ。それでも、だからこそ」  大人しく、魔王の手を取ることしか、ジルコフに残された選択肢はなかった。実に単純でありながら巧妙な計画。人間の弱さを知り尽くした魔王。  ジルコフは短く息を吸った。言いたいことは山ほどあった。自責の念と目の前の美しい男への怒りもあった。しかし、力なく首を振った。 「俺はあんたが憎いよ」 「当然ですね」  この魔王に目を付けられたが最後、どんな形であれ必ず絡めとられる。平凡な人間は抵抗すらできない。その結末が、死であっても、永遠の生であっても。  それでも、ジルコフは悔しかった。平和に穏やかに過ごしてきた日々を、父親から継いだ店を、これからも平凡であろう人生を。たった一瞬で、今までの自分のすべてが奪われたことが。
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