変化

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変化

 こんなに天気が良いのに、中心街から外れた通りを歩く人は少ない。大量生産、大量消費、人口の一極集中、利潤の不公平。中心街ではさぞ多くの人が行き交い賑わっていることだろう。同じ王都でも、こんなに違うのだ。  カウンターに突っ伏して退屈な時間を過ごしていると、店の入り口に人の気配を感じた。ぱっと顔を上げると、久しぶりの客が店内の武器を吟味していた。  背が高くて綺麗な人だった。しゃんと伸びた背筋と、引き締まった体つきの男性だ。高級感のある服を着ていて、身なりはかなり良い。薄水色の長い髪を高い位置で結っている。色白の肌と、赤い右目……妖魔族か、とジルコフは目を丸くした。たしかにこの男は、他の客とは一線を画すオーラのようなものを放っていた。妖魔族には特有の空気感がある。魔法に秀でたものはやはりただの人間とは違うのだ。ジルコフはかつて出会った妖魔族の女傭兵を思い出していた。似た雰囲気がある。 「いらっしゃいませ」  ジルコフはいつも客に接するように、カウンターからのんびりと声をかけた。  男はジルコフの方を振り返ると、柔らかく微笑んだ。おや、とジルコフは内心首を傾げた。その男は左目も赤い。右目だけが赤いオッドアイが妖魔族の特徴の一つだが、この男は違うのだろうか。少し考えて、ジルコフはある可能性に辿り着いて肝を冷やした。赤い両目をもつ男。それは、古くから人々の間に伝わる伝承、美しくも恐ろしい、魔王の物語……
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