後悔

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 ジルコフは目を見開き、その場に立ち尽くしていた。しかし、急に何かに弾かれたように走り出した。人混みをかき分け、来た道を引き返す。 「くそ……くそっ……」  自分がしたことを後悔した。  あの剣を携え、二万の軍勢と向き合う魔王の姿を想像して、胸が苦しくなった。  自分が作った剣が、二万人の兵士を殺したんだ。  笑みを浮かべながら武器を買っていった何人もの冒険者たちを思い返す。そうだ、俺はその笑顔を見たかった、それだけだったんだ。なのに、なのに。  荒々しく戸を開けて、転がり込むように自分の店へ入った。  ひとつひとつ丹精に作った武器が、ずらっと並んでいる。父親から継いだ大切な店だ。  ジルコフは呆然と立ち尽くしていた。全身から血の気が引いていく。滲んだ汗が指先から滴った。 「人、殺し……」  二万人の兵士を、殺したんだ。俺が。  あの時どうして考えつかなかったんだろう。あの魔王に売った武器が人間を殺すことになるなんて、わかりきったことだったじゃないか。だって、魔王は言っていたんだ。人間が攻め込んでくるからって、あの、男が、はっきりと。  魔王の暗い瞳の中に見えた寂しい景色がフラッシュバックする。同情なんてしなければよかった。魔王なんて、魔王なんて。  結局、人類の敵じゃないか。  ジルコフはぐるりと店内を見渡した。  魔王が王都を訪れた話はもう広まっているだろう。ジルコフが武器を売ったことが露呈するのも時間の問題だ。強く拳を握りしめた。もう、ここには居られない。つくづく、自分の行動への後悔が募るばかりだ。人類の敵に加担してしまったんだ。 「くそっ!」  ジルコフはテーブルを強く叩きつけた。 「父さん、ごめん」  平凡な人生は終わる。今まで通りの穏やかな日常がなくなる。その予感だけでも、ジルコフは悔しさと恐れで震えが止まらなかった。  足の力が抜けて、情けなくその場に座り込んだ。
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