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名探偵、大沼計 登場
名探偵、大沼計の推理はいよいよ最後の結び目を解くに至ったらしい。
十年来の助手である霧能亮斗には、彼の目を見ただけでそれが分かった。
「あーなーんだ。そーいうことかー」
柔らかすぎて逆に腰には良くなさそうなソファーに全身を預けるダラけぶりや、心情ダダ漏れの口ぶりからも、謎が解けたことは分かっちゃったけどね。
「犯人あいつだったのかー。そうすると何もかも繋がるもんなー。あー俺って天才」
「ちょっと待ってくださいよ、大沼さん」
探偵に近づこうとした霧能は、自分の足元に敷かれた虎の毛皮に一瞬ギョッとした。
さすが日本有数の資産家、宮藤家の応接間だ。博物館の中かと見紛うばかりに立派な家具や装飾品があちこちに配置されている。壁には剥製のヘラジカの首から上だけが不気味に突き出ていた。その趣味が果たして良いと呼べるかどうかは別として、いかにも資産家らしい部屋だと思う。
名探偵大沼計と助手の霧能亮斗の個人探偵事務所に、宮藤家から事件の依頼があったのは三日前のことだった。
『今から三日以内に宮藤家の当主、慎吾の命をいただく』という趣旨の脅迫状が届いたというのだ。
当初、宮藤慎吾は「下らない」と吐き捨て、まるっきり本気にしていなかった。慎吾は豪胆な男で、恨みを買いやすい性格らしく、命を狙われる心当たりは数えきれない程だと言い切っていた。これまでに脅迫状が届いたことも一度や二度ではなかったらしく、慣れっこになってしまい、警察にもいちいち相談していなかったのだという。
ただ、今回はどうも本気で誰かに狙われているようだと慎吾の妻が心配して、大沼探偵の出番となった。
しかし、悲劇は起きてしまった。
昨夜未明、この応接間から続く通路の先の巨大な隠し金庫の中で、宮藤慎吾が刺殺体として発見されたのである。
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