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犯人は誰だ
「あー複雑な事件だったわあ。しかも犯人があいつだったなんてなー」
探偵のひとりごとに、助手の霧能は喜ぶどころか苛立ちを表さずにはいられなかった。
「そんな事件をたった一日で全て解決しようとしているんですから、さすがは名探偵大沼計ですよ。僕も助手として誇らしいです。ただね! そうやっていつも一人だけ分かった顔して意味深なこと呟くクセ、やめてもらえませんかね! こっちはまだ何が何だかさっぱり分からなくて、気持ち悪いったらないんですよ! 一体全体、犯人は誰なんです? ちょっと教えてくださいよ、ねえ!」
「霧能くんさあ、そんなこと言われてもこっちも困っちゃうんだよねえ」
大沼は面倒くさそうに片目だけ開けた。
「明日、関係者を全員集めて説明するからさあ、それまで待ってよ。だって、今話しちゃったら二度手間じゃん? ここで話したことをまた明日も話すなんて効率が悪いって、君も十年助手してるんだからもう分かるよね?」
「分かりますよ。分かりますけど、犯人の名前だけでも教えてくれません? そうしたらあとは自分で考えますよ。それなら手間じゃないでしょ?」
「えー? うそ。マジで言ってんの?」
大沼はボサボサに伸びた天然パーマの頭をバカにするような動きで左右に振った。頭はデカいのに体型は細いので、まるでマッチ棒のような男である。
「犯人だけ分かればいいのー? 金庫内で起きた完全な密室殺人だよ? トリック暴けるのー? 見つかっていない凶器の行方とか、容疑者全員にある完璧なアリバイとか、君に崩せんのー?」
霧能は奥歯を噛みしめた。探偵の言うことはもっともだった。
事件の謎はすべてが複雑に絡み合っており、どれかひとつの正解が欠けていても解決と呼ぶことは出来ない。逆に、全てが分かればおのずと犯人が誰なのかが分かる。事件とは須くそういう仕組みなのである。
「慌てんなよ。クールダウンよ霧能ちゃん。プリンの底のカラメルあるじゃない。美味しそうに見えるとこだけ食べようとしてもさあ、結局途中のプリン食べなきゃ美味しくないの。苦いだけなの。分かるー?」
探偵は鼻をほじっている。その指先をどうするつもりなのか。まったく、大沼の突飛な行動にはいつも驚かされる。だいたい、探偵を生業とするような人間は皆どこか奇人変人の匂いがするものらしい。彼らは常人の霧能などには考えられないことを平然とやってのける。そこにシビれる憧れるとは言いたくない。だってこいつ、クズやし。あ。鼻くそ飛ばした。ほらな。クズやろ。
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