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探偵の最期
ゆっくりとぎこちない動作で振り向くと、そこには血を流して倒れている大沼の姿があった。
「大沼さん!」
霧能は四つん這いになりそうな勢いで大沼のもとに駆け寄った。
大沼は腹部から大量に出血していた。さっきの音といい、銃で撃たれたのに間違いない。彼の顔面はコピー用紙のように白く、覇気を失っていた。
「まさか……こんなことになるとはね……。この俺としたことが……油断したよ……」
「大沼さん! しっかりしてください!」
霧能は自分の顔がくしゃくしゃになっていくのを感じた。いろんな感情が渦巻き、どれを表面化したらいいのか分からないのだ。
「霧能くん……最後の頼みを……聞いてくれないか」
弱々しい声で大沼が言う。
「最後だなんて、やめてくださいよ! 明日、事件を解決するって言ってたじゃないですか! まだ僕はあなたから犯人の名前も聞いてないんですよ! っていうかもう教えて? 犯人だれ? 気になって夜も眠れねえよもう!」
「えー……。それ、最後に聞く? やだよ、俺。最後の話が犯人の名前とかさあ……それよりもっと大事な話があるんだが聞いてくれ」
「大事な話⁉︎ 何ですかっ⁉︎」
「家を出た時、ガスの元栓閉めたかどうか、いま猛烈に気になってる。確認しといて?」
「もう、それこそどうでもいいじゃないですか! どうせお前もうすぐ死ぬんだからさあ!」
「えー……。でも、俺のせいで近所でガス爆発起きたりしたら、死んでも死にきれないし……」
などと言っている間に探偵の脈が途切れ始めてきた。
「……バカなこと言ってる場合じゃないな」
「そうですよ! 早く、犯人の名前を言ってください!」
「うん……でも、その前に一言だけ。あのさあ、霧能くん……今までありがとうね。俺のわがままにずいぶん付き合ってもらっちゃったじゃない。ほら、去年の北海道旅行の時、絶対すすきのだけは行くんだーってわがまま言っちゃって、ごめんね? 俺はすっげえ楽しかったけどね、すすきの」
「一言が長えんだけど!」
「あとさあ、近所のラーメン屋が俺の頼んだ醤油と間違えて味噌持ってきた時……意外と味噌もいけますよって教えてくれたよね……」
「その話、いつまで続くの⁉︎」
「君の言う通り、意外と味噌も……美味しかっ……た……な……。ありが……と……」
話しているうちに、だんだんと大沼の目が閉じていった。
「…………大沼さん? 大沼さん!!」
霧能は慌てて大沼の体を揺さぶってみたが、すでに彼からの反応はなくなっていた。
「ちょっ……最後ラーメンの話だったんだけど! 犯人誰よ⁉︎ ええええええ〜〜! 勘弁してよ、もう〜〜!!!」
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