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11.包囲
「随分遅くなりましたね」
「お前のせいだろうが」
「すいません。最初に確認すれば良かったんですが」
印刷物の一枚には、現地の作業は不要と記されている。もしもの時に備えて待機していることが二人の役割だったようだ。
「担当の方、戻って来ませんでしたね」
「なにが定時に帰りたいだよ。電話して文句言ってやる」
「腹減りましたね」
「まだ蕎麦屋やってるかな」
「旨い日本酒飲みたいですね」
エレベータの扉が開くと、武装警官が一斉に銃を向けているのが見えた。その中の一人、拡声器を持った男が声を上げる。
「こちらには交渉に応じる準備がある」
訳も分からず、2人は両手を頭上高く挙げた。
「なぁ、蕎麦屋はどうなる?」
「無理そうですね」
廊下のガラス窓の向こう側、夕焼け空が燃えるように赤かった。
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