2.入場

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2.入場

 施設入口の警備室で受付を済ませると、平屋建てのコンクリート建造物へと向かった。建物の入り口でスーツ姿の男が二人を出迎える。現地のシステム担当者だ。 「いつもの方とは違うんですね」  担当者が二人の顔を見て言う。特別な日なので、我々テストのスペシャリストが呼ばれたのだと中年は説明した。具合を悪くした同僚の代役だとは伝えない。  建物内部は簡素な作りだ。ロビー奥に設けられたゲートを抜けた先の廊下は、すぐに行き止まりになっており、フロア内に広い部屋があるようには見えない。二人がゲートへ向かおうとすると、担当者が声を掛けた。 「お持ちの電子機器を全てロッカーに預けて貰えますか」  担当者が指差すロビー脇には、ダイヤル式ロックの付いたロッカーが並んでいる。セキュリティ上、撮影が可能なPCや携帯電話は、持ち込むことが出来ないのだと説明を受ける二人。 「全部ですか?」  中年が尋ねる。全部ですと答える担当者。バッグを持ち込むならば、中身を確認させて貰う必要があると付け加えた。時間が掛かるので、出来ればそのような事はしたくないとも。 「ダウンロードした資料がPCに入ってるんですけど」  中年が言ったが、例外は認められないと担当者。関連資料は、マシンルームに印刷済みのものがファイルされているので、そちらを利用してくれと言う。 「テスト手順書なら印刷して持ってきましたよ」  若者がそう言って、カバンから薄いフォルダを取り出した。数枚の紙が挟まれている。 「気が利くじゃねぇか」 「必ず持って行けって指示がメールにありましたよ」 「そうだったか?」  担当者が中年に不安げな表情を向ける。荷物をロッカーに入れた二人は、担当者に案内されてゲートを通り抜けると、廊下奥のエレベータに乗せられた。B2のボタンを担当者が押すと下降を始める。 「地下にあるんですね」  若者が問い掛ける。災害時に被害を受けないよう、システムは地下室に設置されているのだと担当者が説明する。二人は感心したように頷いた。  地下の廊下は地上よりも長く、何枚もの金属製の分厚い扉で仕切られている。扉を通る度にIDカードを壁の装置にかざす担当者。二人に渡された来客用カードでは、これらの扉は開けないのだと説明する。作業には自分が立ち会うので心配は要らないと話した。 「作業は何時頃に完了する予定ですか?」  担当者が尋ねる。用事があるので、定時には職場を出たいらしい。 「なるべく早く終わらせますよ」  中年が答えると、担当者はお願いしますと頭を下げた。定期的に行われるテストでもトラブルなく数時間で完了しているので、心配はしていないと話す。  マシンルームへと通された二人は、操作端末の前へと案内される。室内はサーバを冷却するファンの音で騒がしい。  担当者が慣れた手つきでシステムにログインし、中年に席を譲った。若者から受け取った手順書を片手に、画面表示を切り替えていく中年。 「じゃあ、さっそく始めさせて貰いますね」  ファンの音に掻き消されまいと中年の声も張り気味だ。担当者は頷いて、離れた場所にある作業机に座ると、PCを立ち上げてネット動画を見始めた。 「結構、のんびりした感じなんですね」  担当者に聞こえないように、小声で若者が中年に話し掛ける。 「まぁ、サブのサブだからな。こんなもんだろ」    そう中年が返事した。  二人は、選んだメニュー通りに正しく画面表示されるかを順に確認し、チェックシートにペンで完了マークを付けていく。
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