3.昼食

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3.昼食

 マシンルームの扉が開き、若い女性が入ってくる。担当者が、女性もシステム担当者だと紹介した。この部屋への入室が許可されているのは、施設内では自分達だけなのだと説明する。 「今日は担当の方が違うんですね」 「テストのスペシャリストだそうだ」 「リリース前なので、入念なテストを実施したいと依頼がありまして、我々に声が掛かりました」  中年が説明する。 「凄いんですね。スペシャリスト」 「いえいえ、それ程でも」  照れている様子の中年。若者は、呆れ顔でその様子を眺めている。 「今日はテストかぁ。先輩の車を当てにして、連れて行って貰おうと思ってた店があったのに。残念」  タクシーで話題に上った蕎麦屋の名を女性が口にする。 「悪い。今日は無理だ」 「仕方ない。今日はカップ麺かぁ」  その声を聞いて、中年が担当者に歩み寄った。 「我々なら平気ですよ」 「平気?」 「カップ麺じゃ可愛そうじゃないですか。連れて行ってあげて下さいよ」 「だけど、作業の立会は規則で決められてますから」 「いつもの担当者は、あなたがトイレに立つ度にテストを中断してました?」 「してません」 「でしょ?昼食に行くのだって、長いトイレみたいなものですよ」 「うーん。だったら、一緒に行きませんか?昼飯」 「我々は、来る途中に駅前で済ませてきました。それに、そんなことしてたら作業終了も遅くなってしまうので」 「うーん」 「まぁまぁまぁまあ」  そう言いながら、担当者を女性の方へと押しやる素振りをする中年。女性にウィンクしてみせている。 「やったー、先輩行けそうですね。他の子にも声かけてきまーす」 「おい、ちょっと」  女性は、既に部屋を出て駆け出している。 「じゃあ、すみません。なるべく早く戻ってきますので、お願いできますか?ここだけの話ですが、いつもの担当の方は、杓子定規でちょっと苦手だったんですよ」 「実はその蕎麦屋、私達も帰りに寄ってみようって話してたんです。有名らしいですね」 「そうですか。だったら、夜の席を予約しておきましょうか?」 「有り難い。お願いできますか」  マシンルームから出る際は、必ず一人が室内に残るようにしてくれと言い残して、担当者は出ていった。室内に誰かが残っていれば、内側からはドアを開けられるので出入りもできる。二人で一緒に出てしまうと、自分が昼食から帰るまで室内に戻れなくなるので、廊下のトイレに行く場合も一人づつ順番に行ってくれと。
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