4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
3.昼食
マシンルームの扉が開き、若い女性が入ってくる。担当者が、女性もシステム担当者だと紹介した。この部屋への入室が許可されているのは、施設内では自分達だけなのだと説明する。
「今日は担当の方が違うんですね」
「テストのスペシャリストだそうだ」
「リリース前なので、入念なテストを実施したいと依頼がありまして、我々に声が掛かりました」
中年が説明する。
「凄いんですね。スペシャリスト」
「いえいえ、それ程でも」
照れている様子の中年。若者は、呆れ顔でその様子を眺めている。
「今日はテストかぁ。先輩の車を当てにして、連れて行って貰おうと思ってた店があったのに。残念」
タクシーで話題に上った蕎麦屋の名を女性が口にする。
「悪い。今日は無理だ」
「仕方ない。今日はカップ麺かぁ」
その声を聞いて、中年が担当者に歩み寄った。
「我々なら平気ですよ」
「平気?」
「カップ麺じゃ可愛そうじゃないですか。連れて行ってあげて下さいよ」
「だけど、作業の立会は規則で決められてますから」
「いつもの担当者は、あなたがトイレに立つ度にテストを中断してました?」
「してません」
「でしょ?昼食に行くのだって、長いトイレみたいなものですよ」
「うーん。だったら、一緒に行きませんか?昼飯」
「我々は、来る途中に駅前で済ませてきました。それに、そんなことしてたら作業終了も遅くなってしまうので」
「うーん」
「まぁまぁまぁまあ」
そう言いながら、担当者を女性の方へと押しやる素振りをする中年。女性にウィンクしてみせている。
「やったー、先輩行けそうですね。他の子にも声かけてきまーす」
「おい、ちょっと」
女性は、既に部屋を出て駆け出している。
「じゃあ、すみません。なるべく早く戻ってきますので、お願いできますか?ここだけの話ですが、いつもの担当の方は、杓子定規でちょっと苦手だったんですよ」
「実はその蕎麦屋、私達も帰りに寄ってみようって話してたんです。有名らしいですね」
「そうですか。だったら、夜の席を予約しておきましょうか?」
「有り難い。お願いできますか」
マシンルームから出る際は、必ず一人が室内に残るようにしてくれと言い残して、担当者は出ていった。室内に誰かが残っていれば、内側からはドアを開けられるので出入りもできる。二人で一緒に出てしまうと、自分が昼食から帰るまで室内に戻れなくなるので、廊下のトイレに行く場合も一人づつ順番に行ってくれと。
最初のコメントを投稿しよう!