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記憶を失くした少女とネム
「…………………?」
辺りを見回すと、1人の少年が私をじっっと見ていた。
「…誰だお前は」
私は不機嫌な顔で少年に話しかけた。
「…!目を覚ましたんだね!」
「誰だと聞いているんだ。」
そう聞きながら上体を起こしてみると、少し目眩がする。
「ネムのこと?ネムはネムだよ。」
「そうか、ネム。ここはどこか分かるか?」
ここが何処なのかまず知りたい。頭が少し混乱しているみたいだ。
「その前にさ、お姉ちゃんのお名前は?」
(……そうだな。私が名前を聞いたことだ、こちらも教えるのが礼儀だな。)
「…っ!」
と思ったものの、自分の名前が出てこない。
「お姉ちゃん…?」
「…すまない。思い出せないんだ。」
何もかも思い出せない。私が誰なのか、ここが何処なのか。今まで何をしていたかも全部記憶が無い。一体どうしたことか…
「お姉ちゃん、名前ないの?だったらお姉ちゃんのことはお姉ちゃんって呼ぶね(*´꒳`*)」
「…そう呼んでくれ。それで、ここはどこなんだ?」
ネムは空を見上げながら手を大きく広げ回ってみせた。
「ここはね、狼泉の森っていうんだよ!」
「狼泉、の森…?」
「そうだよ!ネムは祈りの森って呼んでるの!」
聞いたことがない…これも記憶を思い出せないせいなのもしれない。
「この森は、願い事をすると叶うっていう噂があるんだー。だからネムは祈りの森って呼んでるの。」
「で、ネムはどうやって私を見つけてくれたんだ?」
ネムは考え込むようにしてその場に座り込んだ。
「んーっとね、もう1週間前だから…」
(1週間前…??)
「そうだ!あっこの草むらの上にお姉ちゃんが倒れてたんだよね。」
私は指さされた草むらを見た。少し血がついている。
「っ…!」
立ち上がろうとすると、急に全身に痛みが走った。
「あんまり動かないで!お姉ちゃん最初血まみれで大怪我してたんだよ?」
今はもう乾いている血の跡がそこら中にある。一体どのくらいの血を出したのだろうか…
「だ、ダメだよお姉ちゃん!」
血相を変えたネムに止められたものの無理に立ち上がってみる。
「ぅ…」
フラっと目眩がする……全身の痛みに耐えられず、地面に手を着いた。
「だから言ったじゃん!動いたらまた倒れちゃうよ…」
ふと自分の体を見る。痣だらけでところどころ赤く腫れている。
(骨折してるな。)
持ち上げてもぶら下がったままの腕をみて、ネムは両手で目をふさいだ。
「……ねぇ、病院いこ?見てらんないよ!」
「この体で歩いていけというのか。」
「うっ、」
ネムはその場でしゃがんで考え込んだ。
(表情がコロコロと変わるやつだな。)
「そうだ!知り合いに怪我を見てくれる人がいるから、僕が連れてくるよ!」
「そんなことまでしてもらっていいのか?」
よくよく考えてみると、こんな森の中で子供が1人で、しかもこんなに親切にしてくれるのは不思議だ。
「…お姉ちゃん、似てるんだ。ネムのお兄ちゃんに。」
ネムは寂しそうな顔をしてみせた。
「顔がか?」
「うんん、雰囲気が似てる。だから、放って置けなくて」
「じゃあなんでこんな森の中で1人でいるんだ?」
「それは…ひみつ!」
一瞬、ためらうような表情だったがすぐにネムは笑って見せた。
(深追いするのはよくないな)
明らかに動揺していたようだったが、私は聞かないことにした。
「じゃ、すぐに戻ってくるからお姉ちゃんまっててね!お腹すいてたらそこにあるもの食べていいからー!」
ネムは元気に走り出して行った。
(迷子にならなければいいが…)
たくさんの木の中に消えていくネムを見送りながら、私はネムの無事を祈った。
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