読書の秋~イベント前夜~

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 読書の秋にあやかってもちろん普通の文化的イベントも目白押しになる10月。その最中に突如設定されるダークネス・ホライズンの開放日。準備期間は1週間。棟が違うから関係ないなんてことはない。しかも初の3日間オールナイト実施。彼らは協力し合いながら、それぞれの職場と利用者を、ついでに自分の身を  発令を受けてラメディアは一種のパニック状態に陥った。一般図書棟はうっかり飛び火されないように建物へのセキュリティを跳ね上げ、少しあやかるかと危険のない魔法や呪いテーマの書籍コーナーを作るのに本を探して書架の間を駆けまわる。探偵塔は世間の所蔵物への興味関心の傾向を調べ、不当に使用しようとしているもしくは危険思想の持ち主の動向を調べ上げ方々に伝達する。オールデイ・ロングは開放日の日程、注意事項、今までの事件記録、推しの本の情報など特番を作って発信。飛び交う情報を受けて対応し、その対応を見てさらに別の場所で動きが広がっていく。表でも裏でも大忙しだ。  そんな中ダークネス・ホライズンの面々が一番落ち着いている。彼らにとって魔法も呪いも禁術も日常茶飯事。それでも丸1日となった勤務の体制調整とイベントのアナウンス、装飾、所蔵物の並べ替えと外部への要請とそれなりに忙しさはある。  休憩室や食堂は連日屍累々。そして、漸く前日まで来た。「生きてるかー?」「なんとかー」そんなやり取りがあちらこちらで交わされている。  「マイン、一般棟はとっくに準備できてんじゃなかったっけ? なんでそんな死にかけなん?」  「色々聞いて不安になった新人が辞めようとするのを説得してた……」  「マジか……ちなみにいかほど?」  「11人」  「マジかー」  「ギリギリまで頑張っていたけど不安が爆発したらしくて。何があっても守るからって今までシフト組み換え……防御チャームの追加……ダクホラに守護獣申請……それを見て怯える新人達を宥めて……結局シェリーさんが解決してくれたんだけど、一緒に働く人間の精神状態に気を配れないのは困るって怒られた……」  「あー……お疲れ」  シェリー・ネリウスはダークネス・ホライズンの職員で穏やかな笑みを浮かべて優し気なのに毒舌というギャップが恐れられている。言っていることが基本間違っていないがゆえに怖い。食堂のテーブルに突っ伏してしまったマインがぼそりと呟いた。  「慣れって怖いよな」  「ん?」  「俺らも最初は怖かったし、辞めようって考えたことあったじゃん」  「それな。今じゃちょっとした魔物が入って来ちゃいましたくらいじゃ、蹴り飛ばせるもんな」  ダークネス・ホライズンの開放に伴い、多くの人が普段目にすることのない魔法書や力が宿った書に直接手を触れられることになる。基本閲覧のみとされていても発動してしまう人、魅入られてしまう人、閲覧順での諍いが頻発し、発現してしまった術や呪い、召喚された魔物や幻獣がラメディア全域に騒動を引き起こす。それでもラメディアの理念は開放するのを止めない。 知る権利を奪わないために。  
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