過去と現実

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奈都が彼氏と別れたばかりということを知ったのもこの日だったが、それは本人の口から聞いたわけではない。 俺と同じタイミングで喫煙所に行った友達の白石(しらいし)が言っていた。その話を俺にした際、白石は『弱ってるから落としやすいんじゃね?狙えば?』とニタニタした顔で伝えてきた。 出会った日に酔った勢いで体を重ねる。それは遊び盛りの大学生にとってはそれほど珍しくない出来事なのかもしれない。 でも、20歳の絶賛大学生活を送る俺は経験したことがなかった。それはしたくてできなかったわけではなく、単にその経験をしたいと思わなかったからだ。 そんな何の糧にもならないことを、する意味が分からなかったから。 「谷開君」 行為が終わると、奈都はまた名字呼びに戻る。目だけを奈都に向けたら、奈都は枕を抱き締めるように抱えてじっとこっちを見ていた。 「なんか今日激しかったね。一段と」 「もうすぐ奈都生理だろうから、今のうちに発散した」 「え、なんでそんなの把握してるの?」 「分かるよ。大体」 「ええ……引く……」 「……」 心の底から漏れている奈都の本音に溜息さえも出なかった。布団を被って背を向けると、奈都は人の背中に文字を書いてくる。
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