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というより、あの日の飲み会のメンバーの中に知っている人はいないはずだ。奈都からもそういう話は聞いていない。
だから、今下手に白石に奈都と会うなんて言ったら、しつこいぐらい質問され、面倒なことになるのは目に見えている。
年上の女性とセフレになった、なんて話は誰にもしない方がいい。
白石は講義が終わるまで唇を尖らせていた。チャイムが鳴った後も「ホントに行かねぇの?」と執拗に訊いてくる。
「いいっつってんだろ。お前だけで楽しめよ」
「えー……藤田ちゃん俺1人だけで盛り上がってくれるか……?」
「谷開君」
荷物を入れた鞄を持ち、立ち上がった直後。
いつも脚を出したファッションの藤田が俺と白石のところへやって来た。白いショートパンツ姿の藤田はやっぱり脚を見せている。
落ち着いた暗めの茶色の髪を耳にかける彼女に、横にいる白石が「どした?」平然と首を傾げた。さっきまでムチムチ言っていた男とは思えない。
「谷開君、今日来れそう?」
藤田の長い髪が揺れる。強い眼差しからは僅かな圧を感じる。
「ごめん。無理」
でも、一言そう投げるのに怖気付くことは全くなかった。
「そっか」と目を伏せる藤田はがっかりしたように見える。だからといって、自分の決断を変えようとは思わない。
「じゃあ、また今度一緒に遊ぼう?」
「……」
藤田は藤田で、今回の件のみで終わらせるつもりはなかった。
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