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ついさっきまで奈都を抱いていた俺が言っても説得力に欠けるのだろう。奈都はへらりと笑って「何それ」と俺の肩を軽くパンチした。
「大学生が幸せを偉そうに語るな。生意気だぞ」
「……。社会人が大学生を殴るな」
「きゃっ」
変に語ってしまった自分が恥ずかしくなる。口をへの字に曲げたまま、奈都の両手をベッドに押し付けると、足元にペットボトルが落ちた。
奈都は眉尻を下げて、上に跨った俺をジっと見つめる。
「……もう1回するの?」
「奈都がシたいんなら」
「……」
前髪に触れると、柔らかい髪質は俺の指で簡単に揺れた。擽ったそうに肩を竦めた奈都の耳に手を這わせれば、おでこに眉がキュっと寄る。
「……谷開君に彼女できたら、できなくなるから、今のうちにする」
奈都の手が俺の腕を優しく握った。自然と頬が緩み、俺は彼女の首筋に唇を寄せる。
白い首に息を吹きかければ、奈都はクシャリと髪を掴んできた。
「当分彼女できないから、心配しなくてもいっぱいできますけどね」
「っん……じゃあ、シない」
「もう遅いって」
沈んでいた熱が湧き上がる。柔らかく、弾力のある肌に吸い寄せられるように奈都を抱き締める。
唇を重ねる。舌を絡める。吐息が重なる。
「……凪央ッ……」
「ん……」
なんとなく俺は、奈都に先に彼氏ができてこの関係が終わると思っている。
元カレとの傷が癒えて、また新たな人と幸せを築いて、その頃には年下の男子大学生のことなんてすっかり忘れ去っていて。
幸せになった彼女を、俺が近くで見ることはきっとない。
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