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「谷開君」
教室に着いて早々話しかけてきたのは、此間俺に告白してきた藤田だった。後ろの席に腰を下ろす俺を見つけた藤田は、わざわざ自分の鞄を持って前の席に移動してくる。
ふわりと香る甘い匂いはやっぱり鼻をつく。声を出さずに藤田を一瞥すると「そんな顔しないでよ」と藤田は髪を耳にかけながら苦笑した。
藤田をフったのは僅か2日前のこと。そんなのなかったことのように振る舞う藤田に俺は狼狽えてしまう。早く白石が来ないかと教室を見るも、赤茶色の髪は視界の中にはいない。
「この前はごめんね」
席を変えようかと真面目に思う俺に藤田は控え目に吐き出した。
「あんな所でいきなり告白して、谷開君が戸惑って当たり前だよね。谷開君のこと全然考えられてなかった」
「……」
「でも、あたし本当に谷開君のことそういう風に見てる」
「そういう風?」
眉がピクリと揺れる。嘲笑うような顔で藤田を見る。「うん」と頷いた藤田は上目遣いでジっと俺の目を見据えた。
「セフレでもいいから、谷開君のそばにいたい。好きになってくれなくてもいい」
「……バカじゃねぇの」
「バカだよ。そのくらい谷開君のことが好きなの」
「しつこいんだってホント」
このまま話していても埒が明かない。嘆息を零し、席を立った直後「おーっす」と緑色のキャップを被った白石が来た。
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