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白石は立ち上がっている俺と藤田を「どした?」と不思議そうに交互に見る。
「あ、ううん。何でもないよ」
ニコリと微笑んだ藤田。コロコロと変わる表情に訝しすら感じ、やっぱりこういう女は苦手だと思った。
白石が来たことで、俺はもう一度席に座り直し、耳にイヤホンを突っ込んで周りの音を遮断する。その間、白石が藤田と会話をする。
奈都に彼氏ができて俺との関係が終わっても、俺は藤田とそういうことを絶対にしないだろう。奈都ような裏表のない人がいい。一緒にいて気楽で、気を遣う必要がない、柔軟剤のナチュラルな香りがする人。
音楽を聴きながらスマホで奈都とのLINEを開く。やり取りは<明日行く>とか<次いつ会える?>とか取るに足らないものばかりだ。恋人同士のような愛情表現はどこにもない。それが‘セフレ’という関係の特徴。
いつ、どこで、簡単に剥がれてもおかしくはない。
「さっき藤田と何話してたんだよ」
講義が終わり、教室を出ると白石が俺の脇腹を肘で突いてきた。ニヤけた白石の顔を見つめる気にはならず、もうすぐなくなりそうなルーズリーフを買うべく学内の文房具店に向かう。
「なんだかんだ凪央弥も藤田に興味あんだろ?連絡先交換した?」
「してねぇよ。する気もない」
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