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海の家の営業時間も終わり、時刻は17時。昼間は大勢の人で賑わっていた砂浜も、この時間帯になると波のさざめきがハッキリと耳に入るほどに静かになった。地平線の彼方からは夕陽のオレンジ色が海面を照らしており、眩し過ぎないその光は、昼間とはまた違った海の風景を演出している。いやはや、実に趣深い光景だ。いとをかし、いとをかし。
まあ、そんな景色をバックにして砂浜に立っている俺たち3人の雰囲気が大変微妙なものになっているというのが、唯一残念な点ではあるのだが。
「ねぇ、ミッチー? 今日のバイトは終わりじゃないの? なんで3人で砂浜に集合してるわけ? これからまだ何かあるの?」
タオルで額の汗を拭き取りながら、リサが白木さんに問いかける。ほんのり小麦色に焼けた横顔が夕日に照らされているのを見ると不覚にも目を奪われそうになってしまうあたり、やはり腐ってもコイツは美人なんだなと思い知らされる。
「なに見てんのよ」
いかん、目があってしまった。
「あー、いや、その……べ、別になんでもねぇよ」
「あっそ」
「お、おう」
「……」
「……」
あ、ダメだ。気まずい。死にたい。昼間ほど険悪じゃなくなったけど、沈黙されるとそれはそれで辛い。女の子と喧嘩したことなんてないし、こういう時になんて言えばいいのか全然分かんない。
「へい、そこのお2人さん! 私がバイト時間が終わった後に君達を呼び出したのは、ズバリ! 3人で海で遊ぶためなのさ!!」
沈黙する俺たちを見かねたのか、白木さんは俺に向けてパチリとウィンクをしながら言い放った。
そういえば少し前に『リサの機嫌を直す手伝いをしてあげる』と言ってくれていたが、もしやこれが白木さんなりの"機嫌を直す手伝い"というヤツなのだろうか。
「いや、アタシ別に海で遊びたいとか思ってないよ?」
「ノンノンノン、これは店長代理である私からの命令。リサの意思は関係ないよ」
「えぇ……ま、まあミッチーがそこまで言うなら無理に逆らうつもりはないけど」
「ふっふっふー、従順で大変よろしい。じゃ、岩崎くんもそういうことで良い?」
「え? ああ、俺は良いけど」
「よし決まりね! じゃあ早速3人でビーチバレーやろ! 私、ボール取ってくる〜!!」
無邪気な笑みを浮かべながら言うと、白木さんはパタパタと海の家の方へ走って行ってしまった。
ん? これってリサの機嫌とか関係なく、シンプルに白木さんが遊びたいだけなのでは?
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