第三章「砂浜アゲイン」

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「……」 「……」  おかしい。なぜにリサは何も言わずに黙ったままなのだろうか。こっちは若干の恥ずかしさを感じながらも、助けた理由を正直に答えたというのに。"ありがとう"の一言くらい言ったらどうなんだろうか。  なんてことを思いつつ、俺は「なぁ、黙ってないでなんとか言ったらどうなんだ?」と声を掛けながら背後を振り返り、リサの顔色を伺おうとしたのだが── 「あ、ちょっ! い、今こっち見ちゃダメっ!!」 「ふがっ」  両手で思いっきり顔面を押し返され、その表情を確認することはできなかった。 「ったく、なんなんだよ、お前……いい加減背中合わせで会話するのもめんどくさくなってきたし、そろそろ顔合わせで会話しようと思っただけだったんだが……」 「う、うるさい! とにかく今はコッチ見るの禁止だから!!」 「まあ、そこまで言うなら見ないけどさ」  いや、ホントなんなの、このギャル。普段は散々露出が多い格好してるくせに、今更水着姿を見られるのが恥ずかしいとでも思ってるのだろうか。それとも濡れた髪を見られるのが嫌だったりするのだろうか。まあ、別にどっちでもいいのだが。 「ねぇ、大河?」 「え、なんなの。さっきからめっちゃ名前呼んでくんじゃん」 「今日は、その……色々ゴメン」 「なんだよ、藪から棒に」 「いや、送迎だけって話だったのに大河に無理矢理バイトさせたりしちゃったし。アタシが足をつって溺れかけちゃったのも、準備運動やらずに泳いでたのが原因だし……あ、でもアタシの顔にボール当てたのだけは許さないからね?」 「いや、謝りながら文句言うのやめてくんない? どう反応すればいいか分かんないから。あとボール当てた件に関しては、あの時めちゃめちゃ謝ってるからな?」 「あーん! えっと、だから、とにかく! 今日は大河に迷惑かけちゃったから悪いことしたなって思ったの! ゴメンなさい!!」  随分とヤケクソな謝罪である。 「まあ、なんというか。今日は言葉足らずだった俺も悪い。すまん。理由も言わずに『協力関係を解消しよう』なんて言ってもビックリするだけだったよな」 「そ、そうよ! 元はと言えばアンタが変なこと言うのが悪いのよ! 大河のくせに! アタシ無しじゃ魔女狩りなんてできないくせに! アタシが居なかったら、なーんにもできないくせに!!」 「はいはい、ゴメンゴメン。まさかお前がそんなに俺との関係を気にしてるなんて思ってなかったんだよ。いやー、まさかお前が俺を引き止めるためにバイトさせるなんて思ってなかったわぁー。まさか嫌われてるのかどうかが気になりすぎて不機嫌になってるとは思ってなかったわぁー。あっはっは、こりゃすまんすまん」 「は、はぁー? 勘違いしないで欲しいんですけどぉー? アタシは哀れな大河に手を差し伸べてあ・げ・て・るだけなんですけどぉー? ア、アンタに嫌われてるかどうかなんて、別にどうでもいいし? まあ、でも? どうしてもっていうなら、仲直りしてあげなくもないけど……みたいな?」  いやホントめんどくさいな。素直じゃなさすぎるだろ。魔女枠から脱落してるのに今更ヒロインっぽいセリフ言ってんじゃねぇよ。  でも、まあ……これ以上口喧嘩するのも、それはそれでめんどくさいか。 「はいはい、分かった分かった。明日からはいつも通りな。協力関係解消ってのも一旦白紙に戻すわ」  こうなったら仕方ない。"リサ追放計画"の対策は、協力関係解消以外にまた別の手を考えるしかないか。
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