第三章「砂浜アゲイン」

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 風邪を引いた。  それはもう、言い訳が出来ないほどに思いっ切り風邪を引いた。熱、頭痛、鼻水、そして悪寒。もう完全に役満である。  昨夜、白木さんが地元の消防に連絡してくれたおかげで俺とリサは無事海上から救出された。しかし海の家に戻ってきた途端に、いきなり強烈な寒気に襲われたのだ。熱を測ったら38.5℃もあった。  それから一晩明けた現在、俺は海の家2階の一室にてベッドに横たわり、朝を迎えたというわけだ。結構寝たから体調はマシになったものの、まだ少し身体のダルさは残っている。身体がビショビショのまま上裸で何時間も外に居たからこうなるのも当たり前っちゃ、当たり前なんだろうけども。  つーか── 「スゥー……スゥー……」  なぜこのパジャマ姿のギャルはわざわざパイプ椅子なんか持ってきて、しかも腕組みしながら座って寝ているのだろうか。  などと疑問を抱いたものの、視線を床に落とすと、"熱が出た時に額に貼るアレ"が入っている箱が落ちていたため、俺は瞬時にある程度の事情を察することができた。 「コイツ、まさか一晩中俺の看病をしてくれてたのか?」  例の額に貼るシートは時間が経つとカラッカラに乾いてしまうという欠点が、どういうわけか俺の額は朝になった今でもひんやり冷たい。状況から察するに、リサは俺の額のシートを一定時間おきに交換してくれていたのではないだろうか。 「はぁ。そんな姿勢で寝てたら身体痛めるじゃねぇか」  多少ダルさは残っているが、リサ1人を運ぶくらいの体力はある。幸い、俺が寝ているベッドの隣にもう1つベッドがあることだし、とりあえずそこにリサを寝かせるとしよう。後で『大河のせいで腰痛くなったじゃん』とか言われたくない。  俺は重い腰を上げてベッドから立ち上がり、隣のベッドに運ぶべく件のギャルを抱きかかえる。   「ってか、軽いなオイ」  両腕の上に乗せたリサは想像していた以上に華奢で軽かった。しかしそれでいて女の子らしい柔らかさはしっかりあるものだから、なんとも不思議な感触である。つーか長い金髪が腕に当たったりするわ、ちょっとシャンプーの匂いも残ってるたりするわで、この状態をキープしておくと理性が危ない。 「よし、移動完了っと……ハックシュン!!」  リサを運んだのはいいが、調子に乗って動き過ぎた。やはり病人は大人しく寝ておくべきだったか。今日は特に用事も無いし、昼くらいまでは寝ておいた方が良いかもしれない。  でも、まあ、その前に。 「ありがとな、リサ」  きっと聞こえてはいないけど。これくらいの言葉は掛けておくべきだろう。
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