第四章「First Flavor」

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 気づいた時にはプラネタリウムが終わっていた。 【ねぇ、大河くんにとっての一番星って、誰なのかな?】  いや、正確に言うなら同じ言葉が何度も脳内を駆け巡っていてプラネタリウムどころではなかった、と言った方が正しいか。 「お待たせしました。アイスコーヒーとホットココアです。それではごゆっくりどうぞ」  現在地は、映画館前に位置する喫茶店内のテーブル席。正面に座っている千春さんがココアを手に取ったことを確認しつつ、俺も頼んでおいたコーヒーを手元に寄せる。帰るにはまだ早いということで、『ちょっと時間潰さない?』という千春さんの提案の元、俺たちはこうして喫茶店を訪れることになったのだ。 「で、どうだった? 千春さん? プラネタリウムは楽しめた?」  フーフーと息をかけてココアを冷やそうとしている彼女に向けて、無難な話題を投げかけてみる。 「うん、映画館の音響を使うっていうのはなかなか新鮮で良かったと思うよ。静かに星を見るのも良いけど、ああやってBGM聞きながら見るのも悪くないかもなって思った。1つ発見だね。楽しかったよ」 「そ、そっか。なら、良かったよ」  俺もうだうだ考えずにボーっとプラネタリウム眺めとけば良かったな、と少し後悔。千春さんが星好きなのを知ってからは俺も天体の勉強は少ししてたし、プラネタリウムは普通に楽しめただろう。なんとももったいないことをした。 「……」 「……」  さて、どうしたものか。思っていたより会話が続かない。沙耶とデートしてた時は向こうからずっと話振ってくれてたから会話続いてたけど……いざこうして女の子と2人で居て会話が途切れると、どうすればいいか分からない。  皮肉なものだな。昔から勤勉に、優秀であり続けようとした結果が、このザマだ。去年まで色恋なんて我関せずで突っ走ってきたからな。沈黙を破って盛り上げられるほどの会話力が俺には無い。  昔から知識を叩き込んできた。思考力も身に着いた。ガキの頃に比べれば、色んなことが分かるようになった。 【ねぇ、大河くんにとっての一番星って、誰なのかな?】  でも、いつだって俺は大事なことが分からない。“あの子”の正体は未だに皆目見当がつかないし、目の前にいる1人の女の子を楽しませる方法すら、今の俺には分からない。  本当は、女の子と話すのなんて昔から苦手なんだ。普段は意識的にテンション上げて、何重にも虚勢を張ってるから話せてるだけなんだよ。 「大河くん、やっぱりプラネタリウム始まる前に私が言ったこと、気にしてる?」  黙りこくっている俺に気を遣ったのか、千春さんがいつものように落ち着いたトーンで沈黙を切り裂いてきた。 「ふふ、いきなり変なこと言っちゃってゴメンね? やっぱり気にしちゃったよね?」 「まあ、色々思うところはあったけど……」  彼女の問いかけ。俺にとっての一番星は、一体誰なのか。解釈違いでなければ、それは『誰を選ぶの?』という彼女からの意思表示なのだろう。そりゃあ思うところは多々あるに決まっている。 「ふーん……色々っていうのは、具体的には?」 「え? 具体的に?」 「いえす。具体的に」  これは……正直に思いの丈をベラベラと話してもいいものなのだろうか。 「もし言えない、って答えたらどうなる?」 「言いたくないことは言わなくてもいいよ。今日、今の時点で大河くんが私を……いや、私たちのことをどう思ってるのかなっていうのを個人的に知りたいだけ。イヤなら断っても良しだよ」 「な、なるほど」  要するに千春さんは、現時点で俺が4人へ抱く感情について知りたがっているということか。  さあ、どうする。無駄な駆け引きだと切り捨てて沈黙を貫くか、それとも……  いや、やめだ。細かいこと考えるのはナシだ。このデートウィークの目的は彼女たちのことを知り、この関係性に少しでも変化を与えること。だったらここは、少しでも現状を変えうる選択をするべきだ。  ──気持ちを言葉にして、少しでも俺の胸の内を伝えるべきなんだ。 「ああ、考えたさ。色々考えた。白状してしまえば、プラネタリウムに集中できないくらい、色々考えたよ。なんで急にこのタイミングでそんなこと言うのかな、って。正直、驚いたよ」  千春さんから聞かれずとも、いずれ俺は答えを出す。回答を出さなければならない。誰を選び、誰を選ばないのか。それは問われずとも、自分で十分に理解している。わざわざ彼女が言葉にして伝える必要は、本来無いはずだ。  それでも彼女は、時期尚早とも言えるタイミングで俺に決断を迫ってきた。一体君は誰を選ぶつもりなのか、と。君にとっては誰が一番なのか、と。  そこで俺は、とある考えに至った。 「で、まあ、なんやかんや頭を悩ませて俺は思ったんだよ」  して、その考えとは── 「──もしかしたら千春さんは……このシェアハウスを早く終わらせたいんじゃないかな、って」
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