第四章「First Flavor」

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 東京ディスティニーランド。魔女ハウスの最寄り駅から3駅分離れた町に存在する、巨大テーマパークの名称である。和訳すると『運命の国』であり、字面だけ見ればラストダンジョン感が漂っていて若干物騒だが、実態はただの遊園地だ。ちなみに夢の国の黒いネズ公とは一切関係ない。  本日、デートウィーク3日目。俺は芦屋さんの提案の元、10分ほど電車に揺られて2人で運命の国を訪れていた。いわゆる遊園地デート、というやつである。 「わーい! 久しぶりの遊園地ですー!」 「あはは、走ったら危ないって。落ち着いて落ち着いて」  入場手続きを済ませるやいなや、ピョコピョコとツインテールを揺らしながら園内に駆け出す芦屋さん。水色ワンピースのスカートを風になびかせながら無邪気に笑う彼女を見ていると、危なっかしいやら微笑ましいやらで、なんだか癒される。 「あ、す、すいません、岩崎さん。ちょっとハイになっちゃいました……」 「いや、別に謝らなくてもいいって。楽しんでくれてるのは嬉しいからさ」  実をいうと、俺も結構楽しみにしている。ディスティニーランドに来たのは高校時代以来、約5年ぶりだ。正直5年も経っていると園内も色々と様変わりしていて、気持ちはほぼ初見のようなものである。もちろん芦屋さんとの関係を考えるというのも忘れるつもりはないが、今日はしっかり楽しむつもりだ。あの家に住んでいたら心労が絶えないからな。たまにはガス抜きも必要だろう。 「よーし! じゃあ、レッツゴーです!」 「おう!!」  そして俺は、芦屋さんの掛け声に柄にもなくハイテンションで応えつつ、遊園地巡りを始めた。 ◆ 「岩崎さん、岩崎さん! アレです、アレ! 私、アレに乗りたいです!!」  パンフレットを見ながら広大な敷地内を歩きまわること数分。芦屋さんが突然足を止め、両の目を輝かせながら、俺の袖をクイックイッと引っ張ってきた。 「えーっと、アレはジェットコースターかな?」 「はい! その名もディスティニー・ウッド・コースター! 略してデッド・コースターです!!」  なんか命の危険を感じる略称だな。 「えー、なになに? パンフレットによると……『ディスティニー・ウッド・コースターは最高時速120km/hの木製ジェットコースターです。コースターもコースも完全木製! 木製ならではのスリル体験をアナタも味わってみてはいかが?』とな」 「木のジェットコースターなんて乗ったことないから一回乗ってみたいんです! 岩崎さんも一緒に乗りましょう!!」 「あー、うん。そうだね。面白そうだし、乗ってみようか」 「わーい! やったー!」  無垢な少女のように感情を隠さない彼女の姿に、思わず頬が緩む。生い立ち上、あまり遊び慣れていないので、自然とこういう提案をしてもらえるのは本当に助かる。それでいて常に明るく笑っていてくれるから、いい意味で気を遣う必要もない。こういう、自然体で振る舞えるような雰囲気を作ってくれるのは、芦屋さん特有の大きな長所なのだろう。  はは、ダメだ。毎度のことだが、この娘のことを知れば知るほど疑えなくなってくるな。
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