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第二章「星に願いを」
「ふぅ、やっと落ち着けるな……」
『二日酔いで体調が悪い』というのを理由に魔女たちの手から逃れることに成功した俺は、ようやくシェアハウス2階の自室に到着。手荷物を全て床に置き、ベッドにダイブする。
2階には廊下に沿って6つの部屋が一列に並んで存在しており、廊下の最奥、つまり一番端の部屋が俺の自室となっている。芦屋さん曰く、部屋の並びは廊下の奥から順に『俺→リサ→芦屋さん→舞華→千春さん→沙耶』となっているそうだ。
また、各部屋の扉はオートロックとなっており、専用の鍵を持っていないと部屋を開けることができないらしい。魔女から夜這いをされる心配は無さそうだ。正直隣の部屋があのギャルということもあって少し心配していたが、そこは一安心だ。
「はぁ、もう正午か……」
ベッドに寝そべったまま、枕元に置いているスマホに手を伸ばして時刻を確認。既に午前中が終わっていることに気づく。
「一体これからどうすればいいんだ……」
ほんと勘弁してくれ。急展開過ぎる。
二日酔いの状態で目が覚めたら全然知らない場所に居て。しかも毛布の中には小さい女の子が居て。なんかよく分からないままその子と一緒に暮らすことになって。しかもその子以外にも女の子が4人居て。さらに5人中4人は俺を謀ろうとしている魔女で……こんなの、どう考えたって夢としか思えないだろ。
夢だったとしても悪趣味過ぎる。ハニートラップ対策なんて余計なお世話なんだよ。親父も爺も勝手なことしやがって。俺はハニートラップに引っかかるほどバカじゃないっつの。
「寝るか」
このまま生産性の無い思考をしていても時間の無駄だ。二日酔いで体調も万全じゃ無いし、ここは1度睡眠をとって頭をスッキリさせた方がいい。今後の方針を考えるのはそれからでもいいだろう。
そして俺は仰向けになり、そっと目を閉じた。
◆
「……ハッ!!」
いかん、完全に寝過ぎた。つか、外めっちゃ暗いし。完全に夜だろ、今何時だ……?
「あれ、なんか身体が重い?」
寝ボケていて気付いていなかったが、なんとなく身体が重くて動きづらい。あとは、こう、腹部のあたりになにか柔らかいものが当たっているような気が……アレ? デジャブか? なんか今朝も似たようなことがあったような──
「──って、やっぱり毛布の中に誰か居るじゃねぇか!!」
芦屋さんか!? また芦屋さんなのか!? でもこの部屋ってオートロックのはずだよな!?
などどテンパりまくっていた時だった。
「んぁー、よく寝た。お、大河ぁ。やっと起きたのかぁー」
突如毛布の中から聞こえてきた誰かの声。それと同時に、俺の腹に掛けられていた毛布が急浮上し始める。
そして、毛布の中から俺の目の前に現れたのは──
「やっほー、遊びに来ちゃったっ!」
──下着姿の金髪ギャルだった。
「へ!? な、なんでリサがここに!? つーか、ここってオートロックだよな!? どうやって入ったんだよ! あとなんで服着てないの!?」
「まあまあ、落ち着けって。そんなに一気に質問されても答えらんないからさっ」
半裸姿のギャルは俺の腹に跨り、こちらを見下ろしながら言う。
「いや、これが落ち着いていられる状況かよ! マジで何してんの!?」
「ふふっ、大河ったらウブで可愛いんだから」
「あ、あのー、リサはどうやって部屋に入ったのかな? 鍵がかかってたはずなんだけど?」
「あ、鍵? なんかテキトーに針金でピッキングしてたら開いたよ」
なんというガバガバセキュリティ。
「え、えっと、じゃあどうして服も着ずに俺の部屋に来たのかな?」
「え、だからさっきも言ったじゃん。遊びに来たんだって」
「あ、あはは。遊びね……」
なるほど。リサは半裸で俺の部屋に遊びに来たのか。なんだ、夜這いしに来たわけじゃなかったんだ。うん、きっとそうだ。
「そうそう、アタシは遊びに来たんだよ。まあ、遊びって言っても夜の遊びなんだケド」
「ふ、ふーん?」
うんうん、いいよね、夜の遊び。さては今から俺と徹夜でゲームでもするつもりだな? うん、きっとそうに違いない。
「ほら、触ってもいいよ。今朝もチラチラ見てたじゃん。ふふふ、何のために脱いだと思ってんの?」
「っ!!」
いよいよ雲行きが怪しくなってきた。
「いやー、リサさん? ほら、俺たちってそういう関係になってないじゃん? それに今日はまだシェアハウス初日だ。だ、だから今日はリサもこの辺で自分の部屋に戻った方が……」
「そんな固いこと言うなって。ほら、こうしてやる」
するとリサは突然俺の右手を掴み、
「えいっ」
そのまま胸の谷間に突っ込んだ。
「アンタは固いこと言ってないで、アタシの柔らかい部分を触っとけばいいんだって。あは、なんかウマいこと言っちゃった?」
「な、ななな……!」
「ほら、アタシの心臓ドキドキ鳴ってるよ。触ってるんだから大河にも分かるよな?」
いきなり甘えた感じの表情になるのやめろ。可愛いから。てか、髪すげぇサラサラ。あ、やべ、胸に手突っ込んでるのも相まって心拍数がとんでもないことになってる。
「ふふ、大河もドキドキしてる?」
「お、おいリサ。これはちょっとさすがにヤバいだろ」
「ねぇ、大河がアタシのことを好きって言ってくれたら、『続き』をさせてあげてもいいけど……どう?」
リサは頬を紅潮させ、妖艶な笑みを浮かべながら俺を見下ろす。
「お、俺は……」
耐えろ。耐えろ俺。
「お、俺は……!」
確かに脱童貞のチャンスではある。しかも相手は甘い香りを漂わせている金髪ギャル。正直、今も理性を保つので精一杯だし、心臓もバックバックだ。
でも......でも......!
「俺は1000万払ってまで童貞捨てるほどバカじゃねぇぇぇ!!!」
よ、よし、言ってやったぞ。
「なっ、大河!?」
「頼むリサ、部屋に戻ってくれ」
「......」
べ、別に後悔なんてしていない。1ミリくらいしかしてない。ちょっと惜しかったなー、とか全然思ってない。
と、自分自身に向けて謎の言い訳をしていた時だった。
「ちぇっ、童貞相手だし、ちょっと触らせとけば告白してくると思ったのになぁー。やっぱ簡単にはいかなかったかぁー」
そう言いながら俺の右腕を胸元から離し、こちらに背を向けてベッドから降り始めたリサ。その声は先ほどまでの甘い口調とは打って変わって、ぶっきらぼうなものになっている。
あ、あれ? まさかとは思うけど、これってもしかして……
「な、なぁ、リサ、お前って──」
確信に近い疑念を抱いた俺は、部屋の床に脱ぎ散らかされた服を拾い集め始めているリサの背中に向かって語りかける。
すると、俺の声に反応した彼女は衣服を手に持ったままこちらを振り向き、飄々とした表情でこう言い放った。
「あー、うん。アタシは魔女だよ。もう隠すのも面倒だし言っとくね」
「……」
いや、カミングアウトするの早過ぎだろ。
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