第二章「星に願いを」

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 東条リサ。スタイル抜群の金髪ギャルであり、初夜にいきなり俺の寝込みを襲ってきた『自称魔女』のクソビッチである。 「ねぇ、ちょっと、なんなのさぁー。部屋に戻れって言ったのは大河の方じゃーん。なんでアタシを帰らせてくれないのぉー?」 「シャラップ、ビッチ! 魔女だとゲロった以上、貴様には聞かなきゃならんことが山ほどあるんだ。いいからお前はそこに座ってろ」  そして現在夜中の3時。いきなり魔女カミングアウトをブチかまされた俺は、とりあえずリサから『魔女』に関する情報を絞り出すべく、着替えが終わった彼女を自室の床に正座させていた。リサの前に仁王立ちしているため、この構図だと、まるで悪さをした生徒を叱っている教師になったような気分である。 「うっわ。アタシが魔女だって分かった瞬間、めっちゃ態度変えてるじゃん。最初はメッチャ陰キャっぽかったのに」 「うるせぇな。もともと俺はこっちの口調が『素』なんだよ。つーか、そっちも態度変えてるんだから人のことはどうこう言えないだろ」 「まっ、そうかもね」 「……」 「あっ、お前、今チラっとアタシの太もも見ただろ」 「は、はぁ!? べ、べべ別に見てねぇし!?」  別にちょっとしか見ていない。そんなに短いズボンを履いて美脚を出してるお前の方が悪い。 「ねぇ、アンタを騙そうとしたのは謝るからさ。そんなに怒んないでよ。もっと仲良くやろうよ」 「いや、別に怒ってるわけじゃねぇよ。そっちはそっちで魔女の役割を果たそうとしただけだろうからな」  未遂とはいえ、ちょっと良い思いしたのは事実だからな。騙されたはしたが、そんなに怒る気分でもない。 「へぇー、意外と冷静だね、アンタ。もっとブチギレられるかと思ってた」 「フン、キレるのなんて時間の無駄だからな。あー、でもお前はもっと自分の身体を大事にした方が良いと思うぞ。金のために身体を売るのはもうやめとけ」 「……」 「あ? なにキョトンとしてんだよ」 「いや、まさか自分を騙そうとしていた女の貞操の心配をするヤツが居るなんて思ってなくてさ。あはは、ちょっとビックリしちゃった」 「別に心配したわけじゃねぇよ。もっとマシな金の稼ぎ方をしろと言ったまでだ」  なんか意外と話しやすいなコイツ。思ってたほど悪女じゃないのか? 「まあ、アタシの胸を触った時に顔真っ赤で息も荒くしてたアンタにアタシの貞操の心配をされても、全然説得力は無いんだけどな! アハハハ! マジウケる!!」  前言撤回。汝は性悪魔女。罪ありき。 「えー、で、なんだっけ? 魔女について詳しく教えろ、だったっけ?」 「ああ、そうだよ。いいからさっさと吐け。つーか、念のため確認しとくんだが、本当にリサは魔女ってことでいいんだよな?」 「そうだよ。あはは、初日でワンチャン1000万円いけるかなー、なんて思ってたけど普通に失敗して魔女バレしちった」  などとのたまいつつ、ペロリと舌を出すリサ。 「いや、ノーチャンだっつーの。つーか魔女ならもっと慎重に行動しろよ。さすがに初夜でバレるのはマズいだろ」 「いやー、なんかさ。アタシってじっくり責めるのってムリなんだよね。それで、執事さん? から大河はチェリーボーイだって聞いてたからさ。まあ童貞なら初日におっぱい触らせとけば告白してくるかなーって思って!」  お前は今すぐ全国の童貞男子に謝れ。 「はぁ……いくら童貞でもそれだけじゃ告白しないっつーの。つーか童貞だからこそ告白しないっつーの」 「え? なんで?」 「いや、簡単な話だろ。ヤリの者は胸を触っただけじゃ満足しないかもしれねぇけど、陰の者は胸を触っただけで満足しちまうんだよ。『続きをさせてあげる』とか言われても、そもそもその『続き』を知らないわけ。未知領域を開拓する勇気なんて無いわけよ……ヤベ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた」 「あ、なんか、その……ゴメンな」 「いや、今ガチトーンで謝るのはやめて。なんかものすごく俺が哀れな感じになるからやめて」 「げ、元気出しなって! あ、そうだ! もう1回アタシの胸触っとくか?」  いや『もう1回ご飯おかわりしとく?』みたいなトーンで言われても全然興奮しねぇからな? まあ、本当に触らせてくれるんなら全力で揉みしだくけど。 「って、えぇい! 話が脱線し過ぎだ! 今は魔女の話をしてるんだろうが! で、お前はこれからどうするんだ!? 魔女なのがバレちまったら、この家に住む意味もねぇんじゃねぇか!?」 「え、普通に住むけど」 「……はい?」 「いや、だってここに住んでれば生活費は全部岩崎家から出るらしいし。つーか、なんならアタシがここに来た1番の理由ってそれだし。まあ、1000万円もゲットできたらいいなーとは思ってたけど、そこまで本気で狙ってた感じじゃないわけよ」 「なん……だと……」  じゃあ、なにか? 岩崎家は生活費を魔女たちに全支給してまで、俺のハニトラ耐性をあげようとしてるの? バカなの? 「まあ、アタシは魔女としては例外中の例外だと思うけどね。アタシ以外のヤツらは普通に1000万円欲しがってるんじゃないの? いや、知らんけど」 「え、なにそれもう嫌だ。誰も信じられなくなりそうなんだけど」 「いうてアタシも他の4人とは『1週間ここで一緒に暮らしてる』ってだけの関係だからなぁ。アイツらが裏でどんなこと考えてるかってことまでは正直よく分からん」  なるほど。魔女同士の距離感はまだそこまで近くないってことか。こりゃリサから他の魔女の情報を聞き出すのは無理っぽい。 「はぁ。こりゃ圧倒的に情報が足んねぇわ」 「アタシが言うのもアレだけどさ、大河ってかなり不憫だよね。なんか見てて可哀想になってきたわ」 「なんだ? 俺に同情してくれるのか? こりゃ随分と優しい魔女様が居たもんだ」 「ふふ、じゃあ同情ついでにアタシからアンタにひとつアドバイスしたげる」  悪戯な笑みを浮かべながらリサが言う。 「アドバイスねぇ……まあ、いい、とりあえず言ってみろよ」 「まあアドバイスって言っても単純なことでね。あんまり他の4人を疑い過ぎんなってことよ」 「いやいや、それは無理な注文だろ。4人中3人が魔女なんだぞ。疑うなっていう方が無理な話だ」 「だから、誰も『疑うな』とは言ってないじゃない。『疑い過ぎんな』って言ってんのよ」 「なるほど分からん」 「だーかーら! 頭ごなしに4人を疑いすぎるなって言ってんのよ! 今朝のアンタの目はマジで相当ヤバかったからね? もう顔が『お前ら全員魔女だろ』って言ってる感じだったから」 「え、俺ってそんなに険しい顔してたっけ......あ、でも言われてみれば全員を最初から頭ごなしに否定しようとしていたような......」 「あのねぇ、大河があんなに警戒心丸出しにしてたら、自然と魔女サイドもそれに対抗してボロを出さないようにガードを固くするもんなのよ」 「なるほど、確かに一理あるな。まあ、その魔女の中には約1名例外が居たみたいだが」 「や、やかましい。とにかく。アンタはその警戒丸出しの態度を改めなさい? なんなら他の4人と仲良くなろうとするのもアリだと思うわ。ほら、仲良くなって同情を誘えば魔女側もアンタから1000万円を奪う気が失せるかもしれないじゃない」 「な、仲良くなる、か」  その発想は無かった。だが全く検討外れな発想というわけでもない。なるほど、確かにそれは逆にアリかもしれないな。  リサの言う通り、仲良くなって相手の同情を誘うのも良し。近しい関係になって油断させた後に魔女を尋問して、相手のボロを出させるのも良し。今までは誘惑から耐え続けるという発想しかなかったが、こちらから攻めるという考え方もあるわけか。仲良くなり過ぎて俺が本気で魔女のことを好きになっちまうパターンが怖いが、そこは己の理性と忍耐力を信じるしかない。  つーかリサって思ってたよりイイヤツだな。クソビッチかと思ってたけど、割と俺に同情してくれてるし。なんなら良いアドバイスまでくれたし。人は見かけによらないってやつか。 「な、なによ、急にジロジロ見ないでよ気持ち悪い……」  よし、ここはこれからシェアハウスで一緒に暮らしていく仲間として、リサには親愛を込めてアドバイスをくれた礼を言うとするか。 「良いアドバイスだったぜ! おっぱいギャル!」 「おい、あんま調子に乗んなよクソ童貞」
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