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夕焼け差し込む、シェアハウス。リビングには若い男女が二人きり。
客観的に見ればロマンチックこの上ない状況ではあるが、現実はそう甘くない。『意識しまい』と己に言い聞かせていても“金目当て”の四文字はチラつく。やはり多少は鼓動が高鳴りはするものの、純粋に甘酸っぱい想いを経験することはやはりできないだろう、と。
口を噤んでTVを眺める舞華の横顔を見やりつつ。いつものようにセンチメンタルになっている俺であった。
「はぁ……うーん……」
が、相反して彼女の様子は少し、いつもと違うように見えた。
「どうした、舞華? 何か悩み事か?」
ありきたりな問いかけではあるが、一応声を掛けてみる。
「ん? ああ、うん。ちょっとね」
「あ。もしかして、また勉強で悩んでたりするのか? 俺でよければ、また相談に乗るぞ?」
「えっ? あ、いやっ! 全然大丈夫っ! 個人的に、ちょっとアレなだけで! 全然大したことないから!!」
ブンブンと手を振って「だいじょぶ!だいじょぶ!」と、はぐらかす舞華。
「お、おう。そうか。なら、まあいいんだが」
と、そんな彼女の様子にどこか引っかかりを覚えたものの。ここは首を突っ込まないでおくことにした。
勉強の悩みなら以前のように解決できるが、生憎、俺には学力以外に誇れる武器が無い。深刻な悩みなら力になる努力をするが、本人が大丈夫と言うのなら、大丈夫なのだろう。
あまり干渉しても迷惑になる。しばらくは舞華を気にかけつつ、様子を見るとしよう。
◆
「ねぇアンタ、舞華から何か聞いてない?」
夕食、入浴を終えて、就寝直前。部屋に戻ろうとドアに手を掛けると、隣の部屋のギャルから声を掛けられた。
「ん? 舞華? ああ。少し様子がおかしかった気がするから、声は掛けてみたが……それがどうかしたのか?」
「あー、いや、アタシもちょっと様子が変だなーって思ってさ。それで? 声かけた時の反応はどうだった?」
「反応? とりあえずは大丈夫って言ってたから、それ以上は詮索しなかったが」
「……はぁ。なにやってんの、大河。そんなんだから大河は大河なんだよ」
「え、なんなの、急に。あと俺の名前を蔑称みたいに扱うのやめてくんない?」
なぜか俺にジト目を向けて、呆れた様子のリサ。
まったく。急になんだってんだ。
「いい、大河? よく考えてみて? 魔女であれ、そうでなかれ、4人は何かを隠しながら生活してんのよ? つまり、本性はなるべく見せないようにしてるってわけ。そんな中、舞華が急に変な感じになっちゃってんだよ? アンタはそれ見てなんとも思わないわけ?」
「あ、そ、それは……」
ごもっとも過ぎて、ぐうの音も出なかった。
「あのね、女の言う『大丈夫』は大丈夫じゃない時がほとんどなの。でも、なかなか本音は言えないから『大丈夫』って言うしかないの。つまり、結論。舞華は何かしら抱えてる可能性が高い。理解OK?」
「お、おうけい……」
指を差してくる不遜なギャルに対し、ただただ頭を垂れる。
とりあえず様子を見ればいいだろうと悠長に構えていたが、リサから見れば、事態はそれなりに急を要す可能性もあるとのことらしい。
深く考えずに現状維持を決め込もうとしていたが、なるほど。大丈夫じゃない時も「大丈夫」と言ってしまう、か。なかなかありそうな感情で、しかし、俺には思い当たらない感情だった。
だから、なのだろうか。
「お前、何気に良いヤツだよな」
普段はぶっきらぼうに見える彼女が、今はやけに優しく見えた。
「な、なによ、急に!?」
「いや、なんだかんだでお前も皆のこと考えてんだなって思ってさ。魔女だって自分から言った時は正直どうなるかと思っていたが、上手くやれているようで何よりだ」
「なっ、ほ、ほんと……なんなのよ、いきなり……」
何気なく掛けた言葉ではあったが、彼女にとってはどうも予想外だったようだ。ほんのりと頬を朱に染め、驚いたようにこちらを見やる。
「んじゃ、そろそろ寝るか。貴重な意見サンキューな。おやすみ、相棒」
「ふ、ふん! ど、どういたしまして! おやすみ!!」
なぜか怒ったような様子で言うと、リサはバタンと勢いよく扉を閉め、部屋に入っていってしまった。
「……はは、ホント。みんなも、アイツくらい分かりやすけりゃいいんだけどな」
その不可解な態度に、言いようのない安心感を覚えつつ。チラリと窓辺に目をやると、そこには、微かに雲掛かった半月が輝いていた。
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