1

1/1
前へ
/64ページ
次へ

1

「俺と付き合って下さい!!」 「いや、ごめん無理」 「なんでッ?!」 「なんでって…… 私はあんたのこと好きじゃないし」 一世一代の覚悟で臨んだ告白、あえなく撃沈。 バカだなぁ、女だってどんな綺麗な奴でも大抵見た目に気を遣ってるんだ、面倒なムダ毛の処理とか化粧とか長いだけで洗うのも乾かすのも厄介な髪…… それとお前の見た目が釣り合うか? アニメの男と女じゃないんだ、そりゃあ男選びにシビアにもなるっつーの。 しかもそいつは当時学校で1番可愛いって言われてた本庄愛菜だ、無理に決まってんだろ。 それに今気付いたけどちょっと離れたとこで告白覗かれてるし…… マジで恥ずい奴だなぁ。 そう冷静に上から分析しているのは俺でその本庄愛菜に告白していたのは確か高校2年生の頃の昔の俺。 この出来事は朝目覚める前のこと。 何がどうなったかっていうと全然わからん、順を追って話そう。 俺は皆本新太、35歳独身。  彼女は居てなんと4股をこなしているモテ男だ、こんな俺でも学生時代は全くモテなかった。 身長はそこそこで中肉中背で天パで眼鏡、それでいてオタク気質で根暗な性格。 そんな俺が変わったのは大学に入った頃何気なしにスポーツジムに通い出してからだった。  根性なしの俺は最初はすぐ辞めようかと思っていたが2ヶ月、3ヶ月経つと身体が引き締まって目に見えて成果が出た。  そのことで勢いに乗った俺は美容室に行った、このくるくるの天パをなんとかしたいと思って縮毛矯正をして美容師さんが似合いそうと思った髪型にカットしてもらった、それで「凄くカッコ良くなりましたよ!」と言われてお世辞だろうと思って自分を見るとこれも見た目に物凄く変化が起こったので俺は心の中でガタッと椅子から立っていた。 自分磨きに目覚めた俺はそこから眉毛を手入れしたり姉貴から化粧道具を借りた。 「あんた何してんの? まさかそっち系に目覚めた? それともヴィジュアル系にでもなるつもり?」 「いや、ホストだって化粧してるだろ」 「は?」 こいつバカだわと言いたげな顔をしていた姉貴をよそに見た目改革を成し遂げた。 そんな俺は自身の自信に満ち溢れて性格も次第に根暗ではなくなっていた。 モテにモテて女を取っ替え引っ替えするように遊んだ、モテ始めると知らない奴らと付き合いも増えてそれでまた新しい女と出会う、そんな感じで気付けば4股。 だがある日破綻は突然やってきてひとりの女に俺は刺されてしまった。 そして意識が遠のいていくと俺は高校生2年生の始めのころの自分を見ていたってわけだ。 「マジでありえねぇ、起きたら高校生になってるとかって。 しかも昔の自分…… 普通ならこのパターンって異世界転生とかするんじゃねぇの??」 とボヤいて鏡を見ると不細工な俺の顔…… 「ダメだ、こんなんモテるはずねぇ」 ガクッと項垂れると部屋のドアがバンッと開いた。 「新太ッ!! ご飯って呼ばれてんでしょーがッ!!」 部屋に入って来たのは姉貴だった。 「姉貴が若い」 「はぁ? 何言ってんの?? そういうあんたは相変わらず不細工な寝起き顔じゃん」 「俺って今何歳?」 「何それ? 記憶喪失のつもり? これだから中二病は。 あとちょっとで中学卒業するのに大丈夫?」 え? 高校生じゃないんだ俺。 俺はその後ちゃんと確認してみると中学3年だった、今は2月で本当に卒業間近。 そんな時俺はある考えが浮かんだ。 もしやこれは神が与えたもうたチャンスなのでは?? 俺は学生時代に悔いがないと言えばそんなことはない、だって刺される前はあんなにモテていたんだから学生時代だってモテたかった。 なんでかは知らんけどそれが今叶うかもしれない。 異世界転生でチートでイケメンでってのも捨てがたいけど高校デビューして死ぬ前の俺くらいになれば学校生活も楽しかったという思い出も増える。 そうだ、ここから見た目改革だ!! けど2月後半、肉体改造は最低でも3ヶ月は欲しいところだけどまぁそう言っても仕方ない、今日学校終わったら筋トレ開始だ! それから俺は学校が終わると筋トレに勤しんだ、何故昔は少し努力すればモテたのに気付かなかったんだと自分に檄を入れながら筋トレに燃えた。 そして春休みになると眼鏡からコンタクトに変え俺は美容室に行って縮毛矯正をしてもらった。 「お客さんカッコ良くなりましたよ」 「そうですか? お姉さんとも付き合えますかね?」 カットしてくれた綺麗なお姉さんに訊いてみた。 これ言うのって引かれたりなんだこいつ? って思われそうだけどこれくらいなんなく言えるような奴にならないとな、卑屈はモテない。 「そうですねぇって…… 君面白いね、歳はいくつ? 学生さんだよね??」 「そうです、春から高校生です」 「そっかぁ〜。 あ、タメ口だと店長に怒られるんだった、ごめんなさいね」 美容師の若いお姉さんはコソッと俺に謝った。 「全然構いませんよ、俺全然モテなくてちょっとイメチェンしようかなと思ってたんです」 「なるほど。 でもかなりカッコ良くなったよ、お姉さん君の同級生だったらいいなって思っちゃうかも」 またもコソッと俺に言った。 「お世辞でも嬉しいです」 「ふふ、お世辞じゃないよ、自信持って」 まぁ例えお世辞だとしてもそう言ってもらえるのは手応えとして感じるので少しまた自信が付いた。 後はもう少し身体を鍛えなきゃとそれからも筋トレを続けて夜にジョギングに行こうとしたところ…… 「新太〜ッ、出掛けるならジュース買ってきて〜」 「じゃあお金」 姉貴からお金を渡されると俺はジョギングの途中でコンビニに寄ってジュースを買ってまた走り出すと前の方からトボトボと肩を落として歩いてくる女の子が居た。 こんな時間に女の子が? と不審に思って走る速度を抑えているとそんな俺に女の子と目が合った。 俺がその子を凝視してたのか女の子が「え?」と言うと止まってしまう。 「あ…… ええとどうしたのかなって。 君まだ子供でしょ?」 「私と同い年くらいの人がそう言うなんて…… って見た目で判断してすみません」 あ、そうだった、俺もまだ高校にも入ったないから子供だわ。 「ああ、こっちこそごめん。 それよりこんなとこで何してるの?」 「歩いてたんです」 そんなの見ればわかるけど? と思ってよく見るとちょっと地味なんだけど顔は割と可愛い、いや可愛い。 けどまぁ俺の好みとは違うかなと思った、もうちょっと明るくて派手な子が良いなぁと心の中で思った。 「ふぅん、家出?」 「ち、違いますッ!」 あ、図星っぽいわこれ。 でも他人のことに余計なツッコミはしないでおこう、面倒いし筋トレしたいし。 「そっちこそこんな時間に何してるんですか?」 「見てわからない? ジョギングだよ、身体鍛えてんの」 「そうなんですか」 なんか返しもジメッとしていてつまんなそうな子だなぁ。 でもまぁ家出して気分が落ち込んでたらそうなるか。 「若い時にはいろいろあるよ、多感な年頃だし俺にもそんな時があった」 「え? いやあの…… 何歳なんですか??」 そうだった。 「まぁこれあげるから元気出して」 「え? え??」 俺は姉貴の買い物ついでに買った自分のスポーツドリンクを彼女に渡した。 いきなりそんなの貰っても困ると思うけどいい汗かいてきた時に止まっちゃったから身体が冷えるし早く走るのを再開したかった俺は彼女にニコッと笑うとその子はサッと視線をそらした。 「見たとこ結構落ち込んでるみたいだけど何かの拍子に落ち込んだ分くらい良いこともあるよ多分」 「あ、や、その……」 「それじゃ。 あんまり遅くならないうちに家に帰れよ、捜索願いとか出される前に」 そうして俺はそこから立ち去って行って帰りは同じところを戻らずに違う場所から家に戻った。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加