封筒⑰

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封筒⑰

「で、みかりん休みの日は何してんの?」 キャップ男がテーブルに身を乗り出した。 「ネイルとか買い物かな~」 遊ぶようにスプーンをミルクソルベに刺しながらみかりんは答えた。女子の中では一番華やかで目立つ子だ。 「今度一緒に買い物行こうよ、みかりん俺のタイプなんだよねー」 「え~なんか嘘っぽく聞こえるんだけど」 「そんなことないって!すっげー好み、すっげー可愛い」 「出た、ジュンのド直球アピール」 パーマヘアが言った。 「あったりめーだろ、先にアピっとかないと他の奴に取られるじゃん」 「あたし物じゃないんだけど~」 そう言いながらまんざらでもなさそうに笑って髪を耳に掛けた。照明がピアスのビジューに当たって反射した。 「ゆっかは趣味とかなんかある?」 パーマヘアが話題を作ろうとしている。一番聞かれて困る質問を軽く振ってくる。 「趣味・・」 趣味なんて、別にない。 「あー、趣味とか聞かれてもなかったら困るよね」 なんだか気に障る。でも、嘘をついてまで合わせる必要もない。 「俺はサーフィンが好きなんだよね~、年中行ってる」 「やっぱり?サーファーって感じする~。パーマ似合ってるし、タカシ君お洒落だよね」 智香は話題を拾うのが上手い。高校の時からそうだ、私はいつも智香が楽しそうに話しているのを眺めていた。それで充分だった、だけど今になってその特技が羨ましく思える。 「デザートも食べたし、この後カラオケでも行こうよ」智香が提案すると皆賛成した。 「403号室・・・ あった!」 8人もいれば広い部屋を用意してもらえると思ったけど、混んでるせいか窮屈そうな部屋だ。 「俺、みかりんの隣ね」 みかりんの背中を押してキャップ男は軽快に奥へ進んだ。 「先にどうぞ」 智香が私と長谷川先輩を促した。メールに書いてあった通りだ。私、長谷川先輩、と順に進むと智香はすぐ後ろに続いた。智香がパーマヘアの腕を引っ張ったので残ったフミヤとリイ子はセットで座らざるを得なくなった。 「照明暗くすんねー」 イントロが流れ始めるとパーマヘアとキャップ男がそれぞれマイクを素早く握った。大きめの音量設定が心臓に響く。アップテンポの選曲は良いけど、立ちながら歌おうとする事で幅を取って余計に狭くなった。 「ごめんね、こいつらいつもこんなテンションなんだ」長谷川先輩が私に肩を寄せて言った。そして智香がなんとなくこちらに意識を寄せているのがわかった。 パーマヘアがモニターの映像と同じく手振りをするとその姿を指差してフミヤがリイ子に笑って話しかける。距離が近い。 「すご~い!息ぴったりだねー!」 間奏で智香が褒めるとパーマヘアは照れる仕草をしながら目元に皺を寄せた。 「ゆっかも何か歌いなよ」 智香が長谷川先輩を挟んで言う。顔が近くなるように敢えて左手でリモコンを渡してきた。 1時間も経つと酒を飲んでいるパーマヘアは顔を更に赤くして完全に出来上がっていた。メインで歌っているキャップ男の曲に乗って拳を上げたりしている。智香は長谷川先輩に背を向けてパーマヘアと大袈裟に盛り上がり、私は長谷川先輩と喋らざるを得なくなった。 「ゆっかちゃんは合コンとかあんまり行かないの?」 「行かないです。智香に誘われて今日は時間が空いてたから」 本当はあなたと智香のフォロー役で、なんて言える訳ない。 「そうなんだ、ゆっかちゃんって素朴でいいね」 「それって誉め言葉ですか?」 「もちろん。あんまり派手な子だと話を合わせにくいしね。ところで高校で中田ってどんな子だったの?」 「今とそんなに変わらないかな、いい意味で」 「へえ~、じゃあ騒がしいのは元々のキャラってことか」 「そうですね。でも、明るくていい子ですよ」 智香はパーマヘアと曲に合わせて揺れている、キャバ譲と酔っぱらいの客にしか見えない。でも智香にとってパーマヘアはターゲットに意識させるためのコマで、長谷川先輩に背中をぶつけてみたり、私に話しかけるとき長谷川先輩の膝に手を置いたりするのも全てあざとい計画であることは女から見れば雰囲気で分かる。この為の席順だったのかとメールの内容を思い返した。 「ゆっかちゃん、俺と携帯の番号交換しない?」 「え、はい」 携帯電話を手に取って電話番号を交換していると、みかりんとデュエットを熱唱しているキャップ男が野次を入れた。 「おいおいおい~、はせちゃん。何ちゃっかりいい感じになっちゃってるの~」 皆がこっちを見る、智香と目が合ったのでどんな顔をしていいか迷った。智香は再び背を向けた。
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