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モールの駐車場に車が停まると、真思は気になっていることを聞いておこうと思った。
田所は何でもそつなくこなすタイプだと思う。自炊だって、ネット辺りで調べてさっとできてしまいそうだ。どうして手際もよくない自分にアドバイスを求めるのか。あまり期待されても応えられない。
約束をしたときも聞いたのだが、はぐらかされてしまっていた。
「うまく言えないけど……」
田所がハンドルにあごを乗せて、珍しく言いよどむ。
「俺ずっと親父とふたり暮らしなんだよね」
知らなかった。
「理由はまた話すけど、俺が二歳のときからだから母親の記憶はほとんど無いんだ。それから親父は、仕事と家のことと俺の世話をしなくちゃならなくなって」
うわっ。真思は動揺する。
「母親のほうのじいちゃんが手伝ってくれて親父も頑張ってくれたんだけど、どっちも料理の才能が無さすぎてさ」
えっ?
「そんな遺伝子受け継いでる俺が頑張るの無駄かな、と思ってたんだけど。真思を見てるとそういうのもやってみたいなって、あれ?」
真思が間抜けな顔をしていたのか、ハンドルから顔をあげた田所が笑いだす。
「つまり不器用な僕でもできるならって思ったんだろ?」
真思は迂闊な自分に対する苛立ちを、そんなふうにごまかした。
「え、そんなつもりじゃないよ。真思の一生懸命なところいいなぁって思っただけだよ」
ええっ?
返事もできずにいる真思と、焦った田所の目が合う。
お互いに照れている。
車を降りると広いモール内を案内図を頼りに進んだ。
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