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買い物デート
田所からのメッセージはそれからほぼ毎日のように送られてきた。
最初がすごい勢いだったから身構えていたのに、二日目は『いま何してる?』と尋ねられ『ご飯食べてるよ』と返すと『あとにしようか?』と言われた。
『大丈夫』と送ると『何、食べてるの』と返ってくる。ちゃんとキャッチボールだ。
『野菜いっぱい入れたビーフン』に『何それ、旨そう』とよだれ顔の絵文字付で。
『半端の野菜と炒めただけだよ』
『なんかさらっと言われた〜』
真思のゆっくりな返信ペースに合わせて、時々ちょっと持ち上げるような言葉をくれる。
『悔しいから、いまからカップ麺二個食ってやる』『身体に悪いよ』『わかった一個だけにする。また明日な。おやすみ真思』
ええっ?それだけ?しかも名前?
驚きすぎてすぐには返信できなかった。我にかえって『おやすみ』とだけ返す。
『充之』とは呼べなかった。
三日目からは、職場の様子も話すようになった。田所の眼鏡デビューはパートの女性たちに好評で『頭が良くなったみたいに見える』らしい。苦笑いの絵文字で応える。
些細なやりとりも一週間も経つ頃には無いと物足りない気分だ。
その日、田所は職場の先輩に誘われて飲みにいった。賑やかな場所が好きな先輩で、翌日は昼まで寝てる羽目になりそうだ、と言っていた。酒に弱い人間にとってはつらいだけなのではないかと真思は思ったが、そんなときしか聞けない話もあって面白いらしい。
今頃は楽しくやってるのかな、などと想像しても以前のように落ち込んだりはしなかった。それは田所が折に触れて真思の頑張りを認めてくれるからかもしれない。
家族以外から、しかも自分が憧れる存在からの言葉は確実に真思に染み込んでいた。
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