買い物デート

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 料理をするつもりの無かった田所。 電子レンジと電気ケトルでまかなっているという食生活を、自炊と呼べるレベルにするのは少し気合いが必要そうだ。  真思が「ご飯は炊ける?」と尋ねたら「多分……?」と返ってくる。 調理家電を前にして先ず炊飯器を買おう、と勧めてみた。ご飯が炊ければ副菜を一品と汁物で食事らしくなる。  真思の説明を聞いていた田所が、おもむろに顔を俯けて「なるべく物は増やしたくないんだよね」と小声で言った。 「え、ちょっと待って、どういうこと?」 買い物に来ているのに? 「狭いから、必要最小限でいいんだ」 田所の声の調子が僅かに落ちた。 この声は聞いたことがある。小学校の担任の先生。答えにくいことを聞かれ感情が滲む声。いつもはすっと伸びている背中を少し屈めていて田所の表情は見えない。でもこれ以上聞いてはいけない気がした。    真思の「そっか」という返事は強ばっていたかもしれない。 「パックご飯も美味いからそれでいいよね」「深型の蓋付きフライパンにしよう。焼くのも煮るのもできるやつ」「野菜はそのまま使えるの売ってるし」  いつもの会話とはまるで逆に、真思のほうから言葉を投げる。  顔を上げた田所がホッとしている。真思は自分の答えが正解だったのだと思った。
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