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調理器具のコーナーでフライパンと菜箸とキッチンばさみを選ぶ。
「短い箸だと指熱いよ?よく切れて洗えるハサミがあれば包丁の代わりになるし」
田所は、真思の話を興味深そうに聞いている。いつもの笑顔に戻っていて楽しそうだ。自分の頭の中で献立や手順を思い出しながら最小限のアイテムを選ぶのは、真思へのミッションとしては難易度が高い。でも喜んでくれている、役に立てていると感じて嬉しい。最初のメニューは蒸し焼きがいいかな、などと考えてふと思いつく。
「食器はあるの?」
「あ、そうか…」
この答えだけで察する。
「シンプルなマルチボウルならご飯でも麺類でもいけるよ」先回りして言ってみる。
「真思も使ってる?」
「使ってるよ。洗い物が面倒なときはひと皿ですませる」
「じゃあ似たの買いたい。お揃いみたいなやつ」
この流れは想定していなかった。
あっと思ったときには遅く、真思は隠しきれないほど赤面していた。
なんとなく黙ったまま売り場を移動した。真思も普段は百円ショップで買った皿を使っているので面白い。お揃いは無理でも使い勝手の良いものがないかと見回した。
田所が台形をしたマルチボウルに「こんなのあるんだ。俺こっちは担当したことないから全然知らないな」と興味を示している。
そうだった。本当なら自分の職場で売上貢献するべきじゃないのか。今更だけど。
「いいの。今日は真思と買い物デートしたかったから」
「はぁ?」
真思の考えることなんてお見通しだ、と言いたげな顔で田所が笑っている。でもデートだなんて……。
赤面していた顔をこんどは白くしている真思に「真思が使ってるのってどんなやつ?」と田所が聞いている。
真思は並んだ皿に目を向け、一瞬間をおいて答える。
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