ちゃんと恋人

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 『今から向かうから』と連絡がきたのは定時を10分過ぎたところだった。    それから30分後。仕事帰りの充之を見るのは初めてだ。髪が少し乱れていたが上はユニフォームではなくTシャツ姿。汗をかくと言っていたから着替えて来てくれたのだろう。  玄関に招き入れると 「あれから調子どう?」と聞かれた。 また真思が無理をしていないか気になっているようだ。 「大丈夫だよ。それより早くあがって」 充之も緊張しているのが伝わって、真思の肩の力が抜けた。 「あっ!」スニーカーを脱いだ充之が足を踏み入れようとしてたたらを踏んでいる。 「俺、仕事帰りだから靴下も汗だくだ……」  充之のそんな情けない顔は見たことがなくて、真思は吹き出してしまった。 「足、洗ってきたらいいよ」 充之をそのままバスルームに向かわせタオルを用意しながらも、可笑しくてたまらなかった。    ローテーブルの上にカレーやサラダとスープを並べ、部屋に入ってきた充之といつものように「いただきます」と手を合わせた。 充之の好みを聞いていなかったので辛さは控えめだけど、時間をかけて煮込んだチキンカレーだ。ビーフの方が好きだったらまた作ればいい。  ほろほろと柔らかい手羽先カレーを充之はものすごく美味しそうに食べている。 その顔を見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。 手を止めて見つめていると「食べにくいよ」と充之に笑われた。少し顔が赤いのはカレーの香辛料のせいだけではないかもしれない。    食べ終わると二人で後片付けをして、食後のコーヒーを淹れる。 先に口を開いたのは充之だった。 「また一緒にご飯食べられて嬉しい」 その顔がほんとうに嬉しそうで、真思を勇気づけた。  ちょっと背筋を伸ばして充之に向き合う。「この前はちゃんと返事できなくてごめん。僕も充之が好きだよ」 震えそうになる声をなんとか抑えながら言いきった。    突然、充之がはぁっと溜息とともにテーブルに顔を伏せた。 失敗したか?と真思は戸惑う。 充之が今度はがばっと顔を上げながら 「わかった。ありがとう。もう大丈夫」と言って話を終わらせようとした。 「待って、僕まだ何も言ってない」 身を乗り出した真思を充之が見つめ返す。 ゆったりと座り直した充之が、真思の言葉を待ってくれていた。 「どこから話したらいいのかわからなくて。それにわかりにくかったらごめん」 真思が言うと 「全部話そうとしなくていいよ。これから時間はいっぱいあるし。わからなかったら俺からも聞くし」 うまく話せるか自信がなくて予防線を張ってしまう真思に、充之が大丈夫だと伝えてくれる。   真思は頷いてからゆっくりと口を開いた。
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