41人が本棚に入れています
本棚に追加
約束の時間は11時だから、途中で銀行によってお金をおろす余裕もある。
なんせ、相手は現役の大学生だし、自分と同じ地方から出ていているので、お金の心配をさせてはいけないだろうと思い、今日は自分がご馳走してあげようと考えていた。
渋谷のスクランブル交差点を何年ぶりで渡り、指定のカフェに着いたのが5分前。
目印は白のポロシャツというだけだったので、ちゃんと見つけられるかどうか心配したが、奥の窓際の席に座ってしきりに入り口付近を眺めている若者を見つけ、すぐにシュートだと分かった。
席の前まで行き「シュート君ですか? ミーシャです」と声をかけると、はい!と大きな声を出して立ち上がり「初めまして、シュートです。今日はありがとうございます」と挨拶をした時の、少し緊張しながらもさわやかな笑顔を見て、由紀子はすこしホッとした。
二人とも座ると、シュートが、ここのラテはとても美味しいですよと進めてきたので、それでいいと返事をする。
ウェイターを呼んで、由美子の分を注文してくれるシュート。
それから、ラテが運ばれてくるまで、お互いに何を話していいのかわからず顔を見ながら微笑みあうだけ。
ラテがテーブルに置かれたので、由美子の方から「じゃ、あらためて、ご挨拶ね。初めましてミーシャです。今日はよろしくね」と声をかけると、シュートも「こちらこそよろしくお願いします」と微笑み返してくる。「ミーシャさんて、飼ってる猫ちゃんの名前でしたよね。可愛い名前ですね」
「そう、一人息子が全寮制の高校に行っちゃって寂しいので、4月から飼い始めたの。シュート君っていうのは、やっぱりサッカーやってるからでしょ?」と、互いのハンドルネームについて質問すると、シュートは「それもそうなんですけど、実は本名なんです。親父も昔からサッカーが好きで、男の子ができたら絶対にこの名前を付けるって決めてたらしいんです」とはにかみながら答える。
それからしばらく、シュートの大学生活のことや、サッカー同好会のこと、好きな食べ物や音楽のことで楽しく会話が弾んだ。
そろそろ、お昼の時間になったので、このあとどうしようかと由美子が尋ねると「僕、あまりお金がないので、このままどこか涼しい所でゆっくり話しませんか」と、誘ってきた。
涼しい所でゆっくり、ということはホテルだろうということはすぐに分かった。
最初のコメントを投稿しよう!