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オヤジの通夜で、俺は隆二をぶん殴った。
俺に相談もせずに、勝手にオヤジの工場を売ったからだ。
俺たちの喧嘩を止める者は、もう誰もいない。
だから、隆二は鼻血を出し、俺は左の目元に痣を作った。
「お前なんか、もう家族でもないくせに」
揉み合いの中、隆二はそう言い放って、最後に俺を突き放した。
オヤジの親戚たちは、とりあえずひと段落した揉め事に安堵したのか、ひそひそと何やら囁き合い始める。
工場、隆二君がついでから赤字続きらしかったわよ。せめて女将さんが生きていればね。
怒りが冷えると、隆二と一悶着したのが気恥ずかしくなって、そんな会話を今は何となく聞きたくなくて、俺はよれた黒いネクタイを直しながら、タバコで一服する理由をつけて式場の外へと逃れた。
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