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今日、私は罪人になった。
罪を犯さないように気をつけることだけを、生き甲斐にしてきたような私が。
頬を刺すような冷たい風を一身に受けながら、ひたすら目の前に広がる川を眺めていた。
穏やかに、音もなく流れる川。
流刑。ふとそんな言葉が頭に浮かぶ。昔だったらきっと、私も島に流されていたんだろうか。
そうだったらどんなに良かっただろう。
今日の私を誰も裁いてはくれないし、自らを裁くこともできない。
結局私には、自分自身で命に手をかける勇気なんてなかった。
「……どうしよう」
ジョギングやサイクリングをしている人達を見送りながら、川辺の土手に立ち尽くし、ポツリと一言力なく呟いた。
心の底から沸いて出てきた言葉だった。
文字通り、立ち往生。
一歩も歩ける力が残っていなかったし、行き場もなかった。
そっとお腹に手を当てて息をすることだけで、この命を保っているようなものだった。
「……あれ?今、川逆流しなかった?」
突然かけられた声に、初めて隣に人がいたことに気づいた。
いつからいたんだろう。
ジャージを着た、高校生くらいの男の子。
みるからに活発で社交的な、私とは真逆の男。
「ねえ、逆流したよね?びびった」
心底驚いた瞳で、私に同意を求める。
申し訳ないけど逆流なんてしてなかった。
ずっと眺め続けていたからわかる。
そもそも逆流なんてしたらおかしい。
だけど彼の表情や声色から、とても冗談を言っているようにも、ちょっとおかしい人なのだとも思えなかった。
きっと何らかの理由で、錯覚を起こしているんだろう。
その理由はわからないし、今の私には考える余裕もない。
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