邯鄲

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 そして丁度葉書を近くにあるポストに入れ、ふと空を見上げた。そこには私の想像を遥かに上回る大きさと美しさを誇る望月が山の上から出ていた。私はその時、もっとあの月を見たいと感じたらしく、家へ向かって駆け出した。 「ただいま!」と告げ靴を放るように脱ぎ捨てる。そうしてすぐに見える階段にドタドタと凄い勢いで登った。自室の扉を開き、カーテンを開け、窓を開いた。その刹那である。  涼しいには少し寒い秋風が自らの小柄な体を名一杯仰いだ。その風は少し冷たいかもしれないが、私は風によりこの幻想的な世界へ誘われた。 「おおっ……」私は窓際を掴み、半身を外へ乗り出した。外で観た月は山からもう離れており、山月の風景は潰えていたが、その明月といえば、その下方に見える無数の電飾の比とならぬ程には、私の心を魅了するものであった。夜空はまるで墨液のような漆黒であったが、その漆黒を星々はしっかりと照らしていた。この風景が目を開いた瞬間に目の前に展開したのである。私はこの美しさに絶句した。言葉に出来ない程の美しさに只々圧倒される他無かった。
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