あの頃の思い出

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あの頃の思い出

灼熱の土曜日➖絢香  めちゃくちゃ暑い。こんな日は人にビールを提供している場合じゃないよな。生ビールをジョッキに注いだらそのまま自分で飲んじゃいそうだよ。  灼熱の土曜日は大忙し。昼からランチ営業してるから、ファミリーだけじゃなく、飲兵衛たちが続々とやってくる。それに今日はアイツらが来る。沙織とアユと真里。  この3人とはホント良く遊んだなぁ。あれだけ大所帯のサークルの中でも、めちゃくちゃ気が合う仲間だった。卒業してもサークルみたいな活動してたよなぁ。飲みに行ったり、スノボ行ったり、バスケ合宿したり……サークルはテニスだったけど。3人とアタシは、みんなの盛り上げ役、つまりお笑い担当だった。だから、みんな集まると凄くうるさい。 「アヤカー、来たよー! いつものやつ頼む!」  「おー、スーパーウーマン! いらっしゃい!」  「ある意味、スーパーウーマンだから。ある意味ね。マジでマジで」  「ところで、いつものやつって何だ? 生か? ホッピーか? いつも違うからわかんない」  「いつものって言いたかっただけだよー」  さおりんこと沙織とのやりとりはいつも長過ぎる。それにアユも真里もゲラゲラ笑うから、店が一気に賑やかになった。  「ちょっとごめん。今日忙しいからさ、あんまり相手出来ないかもしれないけど、ゆっくりしてって」そう言って仕事に戻った。  駅前でもなんでもない、自分の家に近いからって決めた小さな居酒屋。それでも板前さん2人とホールの女の子2人雇ってる。オープンしてからこの1年半ぐらいは休みなく営業してる。アタシが体調を崩した時の為に、板前さんとホールの女の子だけでも回せるように教育はした。だけどアタシは今のところ休まず仕事が出来ている。  「おい! ねえちゃんよ! 酒がまだ来てねーんだけどよ!」  出たよ、あのジジイ。この辺りの地主のジジイ。下品だし、嫌がらせされるし、マジ面倒くさい。まぁ、この辺の出身じゃない他所から来た自分が悪いんだけどね。ほら、田舎ってよそ者イジメするじゃん? それに若い女がやってるからって馬鹿にされる。おまけにうちの店、野菜や肉は地元の店から仕入れてるのに、酒はこのジジイが持ってる酒屋からは卸してないからね。これほど嫌がらせされるから、余計に仕入れ先を変える気はしないんだ。一応この店だってジジイの土地に建ってるわけじゃないし。  「はーい、おじいちゃん、もう酔っ払っちゃったかなー? これで最後ねー、飲んだら帰って寝んねだねー」  酔っ払いには何言ったって良いんだ。わかりゃしない。シラフの時には絶対言わないことも平気で言える。このジジイみたいにぐでんぐでんに酔っ払ってる人限定だけど。  「なんかさー、社会に出てから思ったんだけど、お酒の飲み方知らない大人多くない? 会社の人と飲んでも全然楽しくないんだけど」と大酒飲みの真里。  「まあね、そりゃ会社の人は友達じゃないからさ。でも店員さんに偉そうな態度取る上司とかやだなぁって思う」赤ら顔でニコニコしながらアユが言う。  「うちらさー、サークルで飲み方学んだよねー! 凄い人数だったからさー、ある意味小さな社会だったよねー、マジでマジで」  「さおりん、最近良く言うけどマジでマジでって何なの? 流行ってるの?」すかさずツッコミを入れる自分。つい反応してしまう。  「マジでマジでって、言いたくなっちゃう」  みんなで大爆笑。この仲間たちと飲む時って必ずその日の流行語が出来る。今日の流行語大賞は「マジでマジで」に決定だね!
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