第十二章

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第十二章

 よく晴れた日の下、ニコラスとサリネは昼食を摂っている。だが、サリネはイライラを隠そうとはしていない。  いつもはサリネの機嫌を取ることに長けているニコラスは全然サリネに気が向いていないのだ。  サリネが発情期を終えた後、ニコラスはすぐに公務でサリネの祖国であるメア・ドゥリース帝国へと旅立っていった。  この前の発情期でぐんと距離が近づいたニコラスとサリネはしばしの別離を惜しみつつ別れた。  そして五日前に帰国し、ようやく今日の昼に時間が出来たので、久しぶりに昼食を共にしている。  だが、ニコラスは完全に心ここにあらず、という雰囲気だった。  ニコラスがいない間、温室の植物の世話はサリネが行っていた。その際に咲いた花をテーブルの上に飾っていたのだが、ニコラスは全く気が付かない。 「これは雪解花と言って、春にしか咲かない。だが、温室の温度を調整して、夜と昼とで温度を変えたら、うまく花を咲かせることが出来た、すごいだろう」 「うん、それは良かった」  いつもなら何度にすれば良いのか、昼と夜の寒暖差はどのくらいにすれば良いのか等、質問攻めにしてくるはずだ。なのに全くそういった質問を浴びせてこない。  サリネはその質問に備えて、毎日データを取り、記録していた。ニコラスが見ても分かりやすいように表にして、まとめていたのだ。  なのにニコラスは生返事をして、ぼうっと用意された紅茶を飲んでいる。  気に食わない。サリネは話題を変えることにした。 「メアはどうだったんだ? あっちは暑くて大変だっただろう。母は元気にしていたか?」 「お義母さんは元気そうだったよ、サリネのことについて質問攻めにされた」 「余計なことは言ってないだろうなっ」  一人息子のことを溺愛している母は何かとサリネに世話を焼きたがり、心配したがる。 「うん、言ってないよ」  サリネの勢いとは違い、ニコラスは穏やかに笑いかけた。しかしいつか見た寂しそうな笑顔に見える。  サリネは違和感を覚えた。  メア・ドゥリース帝国で何かあったのだろうか。 「ニコラス、あっちで何か」 「ああもうこんな時間だ、僕は仕事に戻るよ、じゃあねサリネ」  様子のおかしいニコラスに対して何があったのか聞こうとすると、言葉を遮られる。ニコラスは素早く席を立つと、庁舎の方へ戻っていく。その側をゼスターが歩き、何事か喋りかけていた。おそらくこれからの予定を教えているのだろう。  二人の後ろ姿をサリネはじっと見つめる。  目を細め、ティーカップから紅茶を一口啜る。今日は苺の紅茶だ。ベリー系はニコラスが好きなもので、サリネが用意すればいつもそれに言及するのだが、今日はそれにも反応がなかった。 「ラヴィ」 「はい」  サリネは後ろに控えていた忠実な僕の名前を呼ぶ。  ラヴィは返事をして、一歩前に進み出た。 「ニコラスのことを調べろ、最近何で忙しくしているのか」 「……分かりました」  命令を受けたラヴィはどこかへ消えていく。  サリネは眉を顰めた。 (浮気か? あれだけ側室や妾は取らないと約束しておいて……)  まさかメア・ドゥリース帝国で愛人でも見繕ってきたのだろうか。  そんなはずはないと思い、サリネは温室の方を見やる。  もうすぐ咲きそうな晴蘭花の蕾が重たそうに頭を下げていた。    その報告を聞いた時、サリネはテーブルをひっくり返してやろうかと思ったほどだ。 「本当なのか?」 「ええ、陛下はほぼ毎日、郊外に住む未亡人のオメガの屋敷に通っています」 「夜か?」 「いえ、夕方には出てきますが、昼からずっと籠っていることもあり……」 「いやもう良い、ありがとうラヴィ」  サリネは唇を尖らせた。その唇が震え、思わず泣きそうになり、奥歯を食い締めた。  黙ったままラヴィが後ろに控えている。 「ラヴィ、一人にしてくれ」 「分かりました」  物分かりのいい従者は何も言わずに退室してくれる。  確かに発情期の時、二人の距離は縮まったが、主にニコラスはサリネを満足させることに一生懸命になっていた。いつもサリネは何度か絶頂に達すると、気絶するように眠ってしまう。ニコラス自身に触れたのも数回で、サリネが見ている限り、射精すらしていなかったのだ。  発情期である。アルファはオメガのフェロモンに誘発される。ニコラスだって同じはずだ。  目の前に発情したオメガがいて、それと四日間も一緒に過ごしていて、抱きたくならないはずがないのだ。  だがニコラスを我慢させてしまったのもサリネだ。サリネが泣いて怖がったから、ニコラスは最後までしなかった。  浮気は許さない、という気持ちと、最後までしていないのだから、その欲を発散させるためには他の誰かを抱くのは仕方ない、という思いとが混じり、わけがわからなくなる。  それにもう新しい愛人がいるのなら、発情期でさえ、身体を許さなかったサリネよりもその愛人をとるかもしれない。  ニコラスはサリネを抱いてくれないかもしれない。  おそらくサリネの容姿がニコラス好みだから、正妃として迎え入れてくれて、優しいニコラスはその位のまま置いてはくれるのかもしれないが、二人が身体を交わらせることはないのかもしれない。  最悪な考えばかりが頭に思い浮かんでくる。  国を出る時は、自分がこんなにもニコラスのことを好きになるなんて思わなかった。  ニコラスが抱いているであろう、オメガの未亡人に対する嫉妬で狂いそうだ。  サリネは正妃なのに、まだニコラスの熱をその身に受けたことはないのだ。  ふらりと立ち上がる。大きな窓からは下の温室の屋根が少しだけ見える。 「どちらへ……、もうすぐ夕食のはずですが」  扉を開けると、ラヴィが横に立っていた。すぐにサリネの元へ行けるように、部屋のすぐ側で待機していたらしい。 「夕食はいらない……」 「ではどこへ……?」 「温室へ行く、ついてくるな」  ぴしゃりと退け、有無を言わさぬように会話をそこで切る。  サリネは手に持っていた上着を羽織った。日が落ちかけ、既に気温は肌寒かった。    温室の扉を開けると、湿気った空気が肌にまとわりついた。しかし温度調整をしているので、開けっ放しにしておくわけにもいかない。扉を閉めると、手持ちランプをつける。昼に来る時よりもかなり薄暗い。  サリネはランプの灯りを手に、ぼうっと植物を見て回った。  本当に様々な植物が育てられている。  湿度が高くないと蕾すらつけないと分かったもの。  挿木で増やしたら、いつの間にか雑草のように増えてしまい、駆除するのに苦労したもの。  熟れた果実だと思い、一口齧ったら硬く苦くて食べられなかったもの。  温室を回りながら、サリネは咲いている花や植物を長めに茎の方から摘み取っていく。  それを左手で握りしめ、奥へ奥へと進んでいった。  ニコラスと育てた植物を順繰りに見ていくと、思い出が蘇ってくると同時にニコラスへの思いも迫り上がってきた。  優しくて、穏やかで、サリネのことを大切に思ってくれるニコラスが大好きだ。  なのに、サリネはニコラスが『アルファ』だからと言う理由でたくさん傷つけてしまった。  性別に左右されたくないなどと大きな声で言っておきながら、一番左右されていたのはサリネ自身だ。それに気がつくと、情けなくて、悔しくて泣けてくる。  常日頃、オメガの前に私は私だ、と言っていた。なのになぜ、アルファの前にニコラスはニコラスだ、ということに気がつかなかったんだろう。しかしサリネがそのことに気がついた時、ニコラスはサリネの手を離れ、別の人のところへ行ってしまった。  もう戻ってはこないかもしれない。サリネのことなんか忘れて、その未亡人のオメガと愛し、愛され、子を為すのかもしれない。  想像しただけで辛かった。 「うぅっ、ニコラス」  上着の袖で堪えきれない涙を拭く。  一番奥まで歩いていくと、晴蘭花が力強く咲いている。  サリネの紋章にもなっている花。ニコラスは一番大切で、思い出のある花だと言って、花びらで押し花を作っていた。  だが、それはサリネとの思い出ではないだろう。前に言っていた大切な人もサリネではないはずだ。  花びらを弄び、それも茎から長めに千切る。  そして側に腰掛け、左手の花や植物と一緒に編み込み始めた。  黄色い花はニコラスの明るく美しい金髪を、青や緑色はニコラスの聡明で優しい瞳を表す。  花を編み込みながら小さい頃を思い出していた。  母は何かあるとサリネのために花冠を作り、頭に被せてくれた。 『サリネちゃんが一番可愛くて、綺麗だよ』  思えばその言葉のおかげで、サリネはいつも自信を保っていられた気がする。皇子たちの中で母親の身分が一番低く、唯一のオメガというハンディを背負いながらも、気高くあることができたのはこの花冠のおかげだ。母にも作ってあげたくて、一生懸命、作り方を教わり、いつの間にか花冠作りが得意になっていた。  ほぼ出来上がった。最後に一輪、大きめの晴蘭花を差し込んだ。 「あれ、これは」  どこかで見た覚えがある。以前、誰かのために同じようなものを作ったことがある気がした。  記憶を探る。  長い金色の髪、利発そうな青色の瞳、花や植物が好きなシャルパンティエの、サリネの初恋の少女。 「まさか」  何かに気付きかけたサリネがもう一度花冠に目を落とした時だった。 「ここにいたのか」  自分に向けられるニコラスの不機嫌な声というものをサリネは初めて聞いた。  顔をあげる。ニコラスの姿を見て、咄嗟に作っていた花冠を隠そうとすると、腕を掴まれ、阻止された。  強い力をこめて腕を握られ、痛みすら感じ、サリネは眉を顰める。 「は、離せっ」 「これは好きな男のために作ったのか?」  サリネの言葉は無視され、ニコラスは意味の分からない質問を投げかけてきた。  質問の答えはイエスだ。これはサリネが愛している夫、ニコラスのために作った花冠なのだから。 「そ、そうだ」  意図がわからず、その質問に困惑しながらもサリネは肯定した。  この花冠は大好きなニコラスをイメージして作った。  しかしサリネの答えを聞いて、ニコラスは太い金色の眉を吊り上げ、サリネから無理やり花冠を奪った。 「こんなものっ」 「あぁ、何をっ」  取り上げられた花冠をニコラスはその場に捨ておく。乱雑な扱いをされ、驚いたサリネがそれを拾おうとすると、再び腕を取られた。そしてそのまま、地面に押し倒される。  腰のあたりに体重をかけられ、乗られてしまうと身動きができない。 「何を……っ」  ニコラスは怒っている。だがサリネは怒りの理由がわからず、ただただ困惑した。 「やはりまだ好きなのか、それで僕を拒否して……、こんな花冠まで作ったんだろう」 「ちょ、ちょっと待ってくれ、まだ好きって? 何の話なんだ」  ニコラスの他に好きな人はいない。唯一、あの少女のことは好きだったが、ただの思い出だ。 「しらばっくれて……、元婚約者のエレアザールのことがまだ好きなんだろう、だから僕のことを拒否して、彼のことを思って、こんな、こんな花冠を……っ」 「はぁっ⁉︎」  エレアザールの名前が出てきて、サリネは思いきり顔を顰めてしまった。  どうして尊大で、軽薄で、アルファであることしか取り柄がないような男のことをサリネが好きなどという発想が出てくるのだろう。 「どうして私がエレアザールのことなんか好きにならなきゃいけないんだ、誤解であっても不快だっ!」 「メアに行った時、彼から直接聞いた、元婚約者で……それで、小さい時からずっと一緒に過ごしてたって。僕なんかよりもサリネについて詳しかったよ、僕は、僕は夫なのに、君のこと、何にも知らない……から」  語尾がだんだん小さくなっていき、掴んでいた手の力が緩む。その隙にサリネは身体を起こした。のしかかってきていたニコラスのことを突き飛ばすと、意図も簡単にニコラスはよろけ、尻餅をつき、後ろに手をついた。  無性に腹が立っていた。慣れないことを無理にしているであろうニコラスにもイラついている。 「お前も私に言うことがあるだろう」     身体についた土を払いながら、サリネが立ち上がる。  よりによってエレアザールとの仲を誤解されるとは。  そのことでサリネはかなり頭にきていた。更に、作りかけていた花冠を取り上げられたこと、乱暴にいきなり押し倒されたことが怒りに拍車をかけている。 「え……、何のことだい?」 「とぼけるなっ」  鋭い声が出た。サリネの大きな声が温室に響く。  サリネの大きな声にニコラスは驚き、目を大きく開き、固まっている。 「側室は取らない、妾は作らないなどと口に出しておいて、未亡人のオメガの元に通っているだろっ!」 「か、通っ……っ⁉︎」  動揺したのか、ニコラスの呂律が回っていない。 「お前のことを二度も拒否した私にも非があることを認めよう。そして国王という存在は世継ぎを作ることが役目に含まれる。正妃である私と性行為がないのだから他のオメガや女性のところへ通うこともあるだろう。だが、お前は、それらをせず、私だけを愛している、と言ったではないかっ」 「待って、待ってくれ、サリネ、君は何か誤解している」 「誤解もクソもあるか、事実だ。私は知っているのだから」 「違う、ああ待ってくれ、愛している、君だけだ、本当に。僕には君しかいないんだ」 「ん?」  浮気男の見苦しい言い訳かと思ったが、どうやら様子が違う。  サリネは片眉を上げながらも、ニコラスの言い訳を聞くことにした。 「君が言っている未亡人のオメガというのは僕の兄だ」 「えっ」  今度はサリネが驚く番だった。 「実は兄は再婚する予定で……しかもその相手の子を身篭っていて……、あんまり家から出られないから僕が直接行ってるんだよ、やっぱり王族だからできちゃった結婚だとか、再婚だとかは慎重にならないといけないだろう、世間の目もあるから……」 「なぜそれを早く言わないっ」  ニコラスに嘘を言っているような様子はない。大体、ニコラスは嘘をついたりするのが苦手な人種だ。  かかなくてもいい恥をサリネはかいてしまった。ラヴィがそこまで調べられなかったのは巧妙に兄の存在が隠されていたからだろう。 「君を誤解させてしまって申し訳ない……、早めに相談すれば良かったよ」  ちらり、と視線を向け、ニコラスがサリネの様子を伺っている。 「でも君、エレアザールのことが……」 「私がエレアザールのことを好いている、いまだに未練があるなどと二度と口にはしてくれるな、虫唾が走る」 「そこまで言わなくてもいいんじゃないか……?」  なぜここでエレアザールを庇う発言をニコラスがするのかわからなかった。  そういえばシャルパンティエに出発する際、エレアザールもニコラスのことを知っているような口調をしていた。 「エレアザールのことをなぜ庇う?」  率直な疑問を口にすると、ニコラスはなぜか罰が悪そうな顔をした。 「いや、その……エレアザールとは……、僕がメアに留学していた時からの腐れ縁で……、今でもたまに親交があるんだよ」 「エレアザールと……友人、ということか?」 「まあ、そうなる、かな……」  今日は知らないことがたくさん明るみになる。  オメガの兄の存在を知り、サリネの中で、かつての少女とニコラスの姿が完全に重なった。  サリネの初恋の、花冠を送った植物が好きな少女はニコラスだ。 「ニコラス、私と以前に会っているだろう。ずっと昔、まだメアに留学していた時だ」  一瞬、ニコラスの表情が緊張したように強張った。そして諦めたように、頷く。 「ああ、貴方は髪が長くて華奢だった僕のことを女の子だと思って勘違いしていたけれど」 「どうして本当のことを言わなかったんだ……」 「貴方のことが好きだったんだ、オメガであることを公言し、アルファの弟たちにも物怖じせず、自分の思ったことを成し遂げる貴方の姿に一目惚れした。だからアルファなのに、虐められ、何も言い返せなかった自分が情けなくて、恥ずかしくて……、貴方に呆れられるんじゃないかって……」  自信がなくなったのか、どんどんニコラスの語尾が萎んでいく。 「帰国してすぐにあの花冠についていた晴蘭花を押し花の栞にしてずっと持ってたんだ。少しでも貴方のことを感じていたくて。忙しい政務や公務の間に花を育てて、晴蘭花が咲いた時には思わず泣いてしまったよ」 「……今でも泣きそうな顔をしているぞ」 「強がっても僕はやっぱり昔から泣き虫なんだ。アルファで成長して身体も大きくなって、やっと貴方へ正式に求婚して、妻として娶ることができたのに、貴方は僕のことを覚えていないし、アルファだから、毛嫌いしてたし……」 「ニコラス」  サリネは真っ直ぐにニコラスの目を見つめる。青色の瞳が泣きそうに揺れている。その様子も昔と重なった。  きっとニコラスは国王になどなりたくなかったのだ。植物学者になりたかったと言っていた。それは今も同じ気持ちなのだろう。   サリネは捨て置かれた花冠を手に取る。少し土がついていたので、それを手で払い、歪んでしまった晴蘭華を元に戻す。  そしてそれをニコラスの頭に捧げた。 「あの時から私はずっとニコラスのことが好きだ、今も愛している」  結論、短い事実だけを先に述べた。他の言葉は後で良い、と思った。ひとまずはニコラスを安心させることが先だ。 「私も初恋はお前なんだ、帰ってほしくなくて、拐いに行くなんてカッコつけて言ってしまったんだ」 「サリネ……」 「以前の約束とは、反対になってしまったけれど……」  サリネはしゃがみ、ニコラスと目線を合わせる。  ニコラスは初め、惚けたような顔をしていたが、意を決したように口を開いた。 「口付けを……しても?」  ニコラスの言葉にサリネは笑った。 「あぁ」  返事をして目を閉じる。ニコラスの気配が近づいてくるのがわかり、少しだけ緊張する。  もう口付けも、その先も怖くはない。  愛しいニコラスのことなら信じられる。  しかし優しい感触は、サリネが予想していた場所ではなく、額に当てられた。 「あ」 「す、すまない、ここで貴方の唇に口付けなんかしたら」  若干困惑しているサリネに、顔を赤くしたニコラスは次の言葉をためらった。 「きっと止まれない、その先も何もかもを求めてしまうから……、僕の部屋に行こうか」  改めて誘われると少し恥ずかしい。  まだニコラスとは挿入を伴う性行為をしていない。  だが今夜はする、今からするのだ、と思うと顔も身体も発情期はまだなのに熱くなる。  性別でも、バース性でもなく、このニコラスという男が欲しい。  サリネは少し顔を赤らめながらも力強く頷く。 「行く」  立ち上がったニコラスはサリネの手を取った。男らしく、大きく、だが緊張なのか少し手汗をかいている感触があり、わからないようにサリネは口の端で笑い、その手をしっかりと握り返した。  二人は少し蒸し暑い温室を出口に向かって歩いていく。  温室は陽光がたくさん入るように天井もガラスで作られている。  サリネの手を引きながら歩いていくニコラスの頭にはサリネが作った花冠がのせられており、天井のガラスから入ってくる月光に金髪が光っている。その反射が妙に美しく思えた。
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